令和元年
 

令和元年サテライト会第3回(12月5日)の模様

 令和元年の3回目のサテライト会は、講師に田中KDDI代表取締役会長を迎えたことから、参加の申込を途中で締め切らざるを得ない盛況で43名の参加者があった。
 遠藤会長の挨拶の中で、現体制によるサテライト会としては次回で終了することになったため、今回は特別にKDDIの田中孝司会長をお迎えし、「KDDIを取り巻く環境と今後の目指す方向について」と題してご講演をいただくとの説明があった。
 更に遠藤会長より、次回サテライト会は2020年2月または3月頃に「衛星通信分野の動向(仮題)」という演題でKDDIの河合氏&三菱電機の阿部氏に講演をお願いする予定であるとの話があった。また、2020年度以降は、安田氏を中心に新たな体制による運用のご検討いただいており、確定次第別途ご案内させていただきたいとした。

財団のイベントを紹介する小島さん
 続いて、遠藤会長よりKDDI財団の小島理代子氏の紹介があり、小島氏より、毎年KDDI財団主催で実施しているカンボジアの教育支援活動の「チャリティコンサートクラシック2020」公演と「カンボジアの影絵スバエクトム」公演の紹介があった。カンボジアでの教育支援は、これまでに12校の学校を開設してきたが、来年新たに1校が開設する予定との紹介があり、学校の開設に加えてPC等の教育機材の充実やスポーツ&音楽活動支援という質的な向上にも力点を置いているとの紹介があった。「チャリティコンサートクラシック2020」公演は、2020年3月4日に紀尾井町ホール、「カンボジアの影絵スバエクトム」公演は、2020年2月22日に聖心女子大学で行われるとし、公演の詳細やチケット等の問い合わせは、KDDI財団にお願いしたいとした。


 引き続き遠藤会長より講師の田中氏についての次のとおり紹介があった。
 講師の田中氏は、1981年にKDDに入社し、主に情報システムの開発に従事した。株式会社DDIとの合併後は2003年4月に執行役員ソリューション商品開発部長に、2007年6月に取締役常務ソリューション事業統括本部長に就任し、併せて新たに設立されたUQコミュニケーションの代表取締役社長に就任した。2010年6月に代表取締役執行役員専務に、2010年12月に代表取締役社長およびUQコミュニケーション代表取締役会長に就任した。そして、以来7年間に亘ってKDDI社長職を務めた後、2018年4月に代表取締役会長に就任し、現在に至っている。

公演中の田中会長

 講演では、本日の演題である「KDDIを取り巻く環境と今後の目指す方向について」というテーマに沿って興味深い内容の話が行われた。講演の冒頭で、田中会長は、来年63歳になるが、最近の一部上場企業の社長になる年代の平均は、56歳~57歳で、年々若返る傾向にあり、田中会長の後継者の高橋社長もこの年代にあたるとした。また、社長時代は、6:30に出社し22:00過ぎに退社するのが通例で、KDDIの中で一番働いているのは、社長であろうとした。
 この後、KDDIの事業概要を紹介され、国際通信のKDD時代から幾多の合従連衡を経て現在のKDDIに至る会社の変遷を辿りながら、通信業界を取り巻く事業環境について解説された。現在の通信業界は、“規模の経済”のビジネスで、体力が無ければ合従連衡が起こるとした。田中会長が社長時代に取り組んだことは、“モバイルモーメンタムの回復”と“営業パイプラインの明確化”であるとした。前者の取り組みとしては、“auスマートバリュー”、“auスマートパス”を梃子にした“モバイル中心の契約獲得モデル”であるとした。また、後者の取り組みでは、営業パイプラインの様々な指標のモデル化とそのモデルのデータに基づくPDCA (Plan-Do-Check-Action) サイクルの徹底による営業力強化であるとした。

会場の風景
 通信事業者(MNO: Mobile Network Operator)の未来についても言及され、MNOビジネスは、将来的には伸びが止まる事業分野であるとし、通信事業領域以外での新たな成長軸の確保が絶対的な条件になるとした。これからの通信業界は、通信技術の面では4Gから5Gに移行することによりSociety 5.0への期待が高まっているとした。5Gの登場に合わせてIoTと5Gの組み合わせにより全てのモノがネットワークにつながる世界になるため、よりイノベーティブなサービスの創造が求められているとした。

 最後にKDDIは、“通信とライフデザインの融合”を推進しており、“通信企業からライフデザイン企業”に変身を図っている途上であるとした。
 講演後は、出席者から活発な質問が寄せられ、予定時間をかなり超過するほど盛況な質疑応答が行われた。

講演後の懇親会にて

 

以上    

 

 
 

令和元年サテライト会第2回(10月17日)の模様

令和元年の2回目のサテライト会で講師を含めて30名の参加者があった。

遠藤会長より、本日はKCSの藤井幸弘氏を講師にお迎えし、「新しいケーブル敷設船の建造について」という演題でご講演をいただきますとの挨拶があった。

更に遠藤会長より、サテライト会の今後について、前回も提案させていただいたように、サテライト会の活動は本年度末を持って終了したいとの話があった。これまでも、会員の高齢化による講演会参加者数が減少傾向にあること、幹事団の高齢化対策として若手ボランティアの協力をお願いしてきたが、具体的な協力が得られないこと、最も重要な講演者の確保についてKDDI本社、研究所の方々などにご協力をいただいてきたが限界に近付いている事が主たる要因であるとした。ただし、会員の方から、講演会は無理でも懇親会だけでも良いのでこのような集まりを続けて欲しいとの意見が寄せられているので、新たな形態での継続についても関係者と調整を行いたいとした。なお、次回は12月5日にKDDI田中会長に講演をしていただく方向で調整しており、近いうちに周知させていただく予定であるとした。

続いて、稲垣幹事より講師の藤井氏(右写真)についての紹介の後、藤井氏から更に詳しい自己紹介があった。
講師の藤井氏は、昭和58年にKDDに入社してKDD直江津海底線中継所に配属され、国際通信ケーブルの運用保守に従事した。その後、昭和61年に海底線部に移動し国際通信ケーブルの建設工事に従事した。その後平成5年に国際ケーブルシップ株式会社(KCS)に出向し、国際通信ケーブルの建設・保守業務に従事した。
2011年にKCSの執行役員になり、2015年に取締役に就任しケーブル敷設・陸揚工事等の基本計画ならびにプロジェクト管理を統括されている。またケーブル敷設船の導入はじめKCSの中長期計画も策定等を統括している。

説明を行う藤井講師と遠藤会長(手前)

講演では、本日の演題である「新しいケーブル敷設船の建造について」以下の内容の解説が行われた。
1.KCSの紹介
2.KCSのケーブル敷設船
3.新しいケーブル敷設船への要求
4.海底ケーブル敷設船におけるIT活用

最初のKCSの紹介では、KCS会社概要、会社沿革とケーブル船、地震、津波観測、資源探査ケーブル関係工事、海洋エンジニアリング、ユニバーサルジョイント・コンソーシャム等についての説明が行われた。
KCSのケーブル敷設船の紹介では、KCSがこれまで使ってきたKDD丸、KDDIオーシャンリンク、KDDIパシフィックリンクについて紹介がなされ、これまでの敷設船と比較する形で新たに建造されたKDDIインフィニティの概要の紹介が行われた。また、KDDIが運航してきたケーブル敷設船に加えて、我が国で運航されてきた海底ケーブル敷設船(沖縄丸、小笠原丸、黒潮丸、VEGA(光洋丸)、SUBARU、きずな丸等についての紹介もあった。

新ケーブル敷設船 Cable Infinity スリランカ出航

また、ケーブル敷設船特有の設備である水中ロボット、ケーブル埋設機などの主要ケーブルハンドリング機器に関する説明も行われた。
今回、KDDIおよびKCSが新たにケーブル敷設船を建造するに至った背景と新船に要求する主要仕様条件について紹介があり、最終的な新船の設備概要の解説が行われた。
今回の新船建造にあたっては、これまで通信ケーブル敷設のみを対象にしてきたが、洋上発電や海底電力ケーブルへの新規ビジネス需要が顕在化してきたことから国内で初めて電力ケーブル工事への対応が可能な設計にしたとの説明があった。
また、今回新たにケーブル敷設船を建造するにあたっては、船上設備の稼働状況やケーブル敷設状況など多種多様のデータを船内と陸上でリアルタイムに共用できるよう、現場作業の効率化とインテリジェント化に考慮を払ったIT活用の狙いについても解説が行われた。
講演後は、出席者から活発な質問が寄せられ、予定時間をかなり超過するほど盛況な質疑応答が行われた。

講演後に、遠藤会長より講師の藤井氏への謝辞が送られた。また、今回のケーブル敷設船KDDIインフィニティがスリランカのコロンボにある造船所で建造されたとの説明に関連して、スリランカ(かってのセイロン)と日本の繋がりの深さを示すエピソード(セイロンは、世界第二次大戦後のサンフランシスコ講和会議において日本がソ連等により分割統治される危機を回避する主張を行い、対日賠償請求放棄するとともに、世界で最初に対日講和条約を締結した国である。当時セイロン代表として講和会議に出席したジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ大統領は、「憎悪は憎悪によって止むことなく、愛によって止む(Hatred ceases not by hatred, But by love.)という仏陀の言葉を引用、対日賠償請求権の放棄を明らかにすると共に、日本の国際社会復帰を求め、日本の国際社会復帰の道筋を作った。)の紹介があった。

会場風景

以上

 

 
 

 

令和元年サテライト会第1回(5月23日)の模様

令和元年の最初のサテライト会で30名の参加者があった。

遠藤会長より、本日はKDDI総合研究所の杉山敬三氏を講師にお迎えし、「M2M/IoTの技術動向について」という演題でご講演をいただきますとの挨拶があった。
更に遠藤会長より、サテライト会の今後について、幹事会で協議をしてきた結果として、サテライト会の活動は本年度末を持って終了したいとの話があった。これまでも、会員の高齢化による講演会参加者数が減少傾向にあること、幹事団の高齢化対策として若手ボランティアの協力をお願いしてきたが、具体的な協力が得られないこと、最も重要な講演者の確保についてKDDI本社、研究所の方々などにご協力をいただいてきたが限界に近付いている事が主たる要因であるとした。

続いて、稲垣幹事より講師の杉山氏についての紹介の後、杉山氏から更に詳しい自己紹介があった。
講師の杉山氏は、昭和62年にKDDに入社してKDD研究所に配属され、この年の8月に研究所が目黒から上福岡に移転し、航空衛星通信を用いたデータ伝送の研究に従事した。その後、主として通信プロトコルやネットワーク管理関連の研究に従事し、2003年にYRPリサーチセンターで無線ネットワーク関連の研究に従事した。
2011年にKDDI研究所の執行役員になり、飯田橋の本社の開発センターで水池センター長の下で研究成果の実用化の業務に従事した。その後、2016年にATRに出向し、平田社長の下で適応コミュニケーション研究所長を務め、現在は、KDDI総合研究所の執行役員兼セキュリティ部門長として、5G、IoT、AI、サプライチェーン等のセキュリティ・プライバシ課題に関する研究開発を統括されている。

講演では、本日の演題である「M2M/IoTの技術動向について」最初にM2M/IoT技術の概要説明があった。
この技術の適用分野としては、セキュリティ、商用自動車、決裁、EMS、スマートメーター市場等が有望であるとし、M2Mトラフィックの需要予測では、2017年から2022年の5年間で約6倍(年率;1.5倍)に増加すると見込まれているとした。

また、KDDIにおけるM2M/IoTの主な取組みとしては、お客様の生活向上まで視野に入れて、取引先が提供するIoTサービスを全面的にサポートしていくとした。取組み対象については、当初法人向けが主体だったが、コンシューマも対象に、更に新規サービス創出に移行しているとした。
スマートシティにおける先進事例の開発を強化しているとし、除雪車の運転支援、トイレ空き室状況管理、作物栽培管理、水位管理等の日本全国で展開している実証実験事例の紹介があった。

 

次いで、M2M/IoT通信方式の概要についての解説があり、適用距離と適用エリア毎に使い分けられている通信方式の説明があった。特に代表的な方式として、LPWA (Low Power Wide Area)の動向について専用ネットワークとして免許不要バンドを利用しているLoRaWAN、Sigfox、Ingenu方式とLTEバンドを利用しているCat-1、Cat-M1、Cat-NB1についてそれぞれの方式毎の使用周波数帯、通信速度、使用帯域、適用エリア等について特徴を比較する形での解説があった。
また、具体的なIoT技術の応用事例の紹介があり、LoRaWANを用いた事例として、岐阜県下呂市で商用化に向けた実験をしている除雪車の位置管理、厚木市でマンホールに設置したセンサーによる浸水管理、沖縄の宮古島でIoTを活用したマンゴー栽培管理等の紹介がなされた。また、LTE-Mを用いた事例として、那覇市の国際通り商店街でゴミ箱にセンサーを取り付けてごみ収集の効率化実証実験等の事例紹介が行われた。
IoT時代を迎えての喫緊の課題についても言及され、IoT端末はウェアラブル機器等様々な機器がネットワークにつながるうえに、一旦設置されるとソフトウェアの更新等が容易でないため、外部からの攻撃に対するセキュリティ対策を如何に管理していくかが大きな課題であるとした。
IoTに対する脆弱性の具体例について、NICTによる観測結果(NICTER)の紹介があり、Telenetポートへのスキャンが急増している事例や、ウェブカメラが海外からの不正アクセスで情報漏洩が起きている事例、自動運転用の車の制御用CPUに不正アクセスされ異常動作が起きた事例等が紹介された。

その後、KDDI研究所が経済産業省主導の「大規模HEMS情報基盤整備事業」に参画して実施した電力データ分析プロジェクトの取り組みについて解説がなされた。


最初にHEMS (Home Energy Management System)の概要の解説がなされ、HEMSにおけるデータの流れについての説明がなされた。次いでこのプロジェクトの狙いについての説明が行われ、iエネコンソーシアムの実施体制、KDDIが桑名市で実施した実証実験の概要、この実験で得られた実験結果の解析結果の紹介が行われた。この実験では、生活支援、情報配信、クーポン配信、省エネ支援等のサービスを提供し、データ解析から世帯属性分析を行い、将来の事業化の分析を行った結果についても紹介があった。実験に協力してくれたモニターへのアンケート結果では、簡易見守りサービスや情報のターゲティング配信分野の評判が高かったそうだ。
講演終了後の質疑応答では、IoTと5Gサービスの関係、IoTデバイスに対するセキュリティ対策、自動運転分野に対するKDDIと競争他社との動向、膨大なIoT端末の管理方法、災害対策分野での適用例等についての質問を含め沢山の質問が寄せられ、活発な講演会になった。

最後に遠藤会長から、今年度のサテライト会の活動予定についての紹介があり、次回は9月頃にKDDI/KCSが新たに導入を予定している新ケーブルシップに関する講演をKCS社長にお願いしていること、更に来年1月頃(あるいは3月頃)に衛星通信技術の動向についての講演を阿部さん&河合さんにお願いしているとの紹介があった。また、実現できるか不確定要素があるが、KDDIの事業展開の動向についての講演依頼を、サテライト会会員を通じてKDDI幹部の方に打診してもらっているとの紹介があった。


以上

 

 

 

▲INDEX 

 

平成30年
 

平成30年サテライト会第3回(12月19日)の模様

 平成30年度3回目のサテライト会は、本年最後の会合だったため、総会を兼ねて実施された。冒頭、遠藤会長より、今回は、講師にKDDI シニアディレクターの 松永 彰 氏をお迎えし、「5Gにより実現する世界、ワクワクする体験」という演題でご講演を頂くので、清聴をお願いしたいとの挨拶があった。今回も最近関心が高まっている興味深い演題だったため、久方ぶりに38名という多数の参加をいただいた。

 井上幹事より、KDDI財団が毎年開催している「チャリティコンサートクラッシック2019」を来年3月6日に紀尾井町ホールで予定しており、カンボジアやミャンマーの学校の教育支援に使われているので、是非ご協力をいただきたいとの紹介があった。なお、2018年はKDDI財団設立10周年を記念して久しぶりにカンボジアに11校目となる学校を開校したとの報告があった。

 続いて稲垣幹事より、平成30年度の活動報告と会計報告および平成31年度の活動計画(案)について報告があり、承認された。なお、活動報告に絡めて参加人数の推移について報告があり、今年度の参加者数は、講師の方を含めて29名、31名、38名となっており、前年度より参加者数に減少の傾向が表れているとした。


なお、最近KDDI OBの方に講師をお願いするケースが増えており、社外講師の方で協力いただける適任者についての情報提供の依頼があった。来年度の幹事については、遠藤会長以下幹事も同じ顔触れを予定しているが、毎年1歳ずつ年を重ねているため、協力をお願いしたいとの補足があった。また、直前3回の会合で、連絡がなく欠席された方、連絡がなく直前に参加された方がおり、参加費はぎりぎりの設定で行っているため、止むを得ず参加できなくなった場合、遅くとも前日までに幹事宛へのご一報をお願いした。

 井上幹事より講師紹介が行われた。講師の松永氏は、1983年にKDDに入社し、山口衛星通信所に配属された後、1985年にKDD研究所に移動し、衛星通信分野の研究に従事された。その後本社の運用企画部、ネットワーク企画部で技術企画業務に従事され、2000年からKDDI移動通信企画部門にて携帯電話事業に参画された。その後、移動体通信分野の4G&5Gの技術開発&標準化等の業務を統括され、KDDIのみならず日本を代表するこの分野の第1人者とされており、2014年からシニアディレクターとして活躍されているとした。

 講演では、5Gの現況、5Gのチャレンジ、5Gにより実現する世界、ワクワク体験という3部構成で5G技術の概要の解説が行われた。

 講演の後、活発な質疑応答が行われ、参加者の5Gに関する関心の高さを実感した。

 

 

 

 
 

平成30年サテライト会第2回(9月27日)の模様

遠藤会長の挨拶
平成30年度2回目のサテライト会は、9月27日に開催された。遠藤会長より、今回は、KDD研究所OBの若原 恭氏に、最近話題になっている「ブロックチェーン(Block chain)」という演題でご講演を頂くので、清聴をお願いしたいとの挨拶があった。今回は、講師の若原さんを含めて31名の参加があった。

稲垣幹事より、本日の講師の若原氏について以下のように講師紹介が行われた。

若原 講師
講師の若原氏は、1974年にKDDに入社し、研究所に配属され、ファクシミリの符号化方式・分散型ディジタル交換システム・通信ソフトウェア・ATM(非同期転送モード)・IN(Intelligent Network)・IPネットワーク技術等の研究開発に従事された。その後、1997年に本社・サービスシステム部/情報システム部兼務となり情報システムの開発に従事された。
1999年にKDDを退社し、東京大学情報基盤センター教授に着任。東京大学では、学内情報ネットワーク基幹部の構築・運用、及びネットワーク関連技術の研究に従事された。また、2000年に東京大学新領域創生科学研究科(基盤情報学専攻)兼務、2008年以降は東京大学工学系研究科(電気系工学専攻)兼務となり、学生の教育&研究に従事された。
2015年に東京大学を退官し、現在に至っていると紹介された。

若原氏の講演概要は以下のとおりである。

本日の講演では、昨今話題になることが多いビットコイン(Bitcoin: 以下BTC)等の仮想通貨の基盤技術であり、仮想通貨以外にも応用範囲が広く、産業や社会を一変する可能性があるとも言われている「blockchain(以下BC)技術」について、その技術の発展や応用の可能性も含め、概要を紹介する。

仮想通貨の定義については、未だ確定したものがなく、ここでは、国や法律での裏付けがなく、ネットワークを通して流通し、電子的方法によって記録される決済手段であるとする。BTCとは(仮想)通貨の名称をさすが、通貨BTCの単位でもあり、通貨BTCを扱うシステムや処理を行うソフトウェアという意味でも使われている。また、BCとは、取引の記録(情報)をまとめたblockの連なりであり、BTC等を実現するためblockの連なりを利用したシステムを意味することもある。

本日の講演は、右図のような構成に沿って説明を行う。
BCの本来の目的は、信頼できる第3者(国等)を必要とせず、当事者間での取引が可能な電子通貨(BTC)を実現することで、技術の目的としては、必ずしも信頼性が高くないネットワークに接続された複数のノードが同一のコンテンツ(情報)を持つ分散DBを実現する(『合意形成』)ことである。
BC(BTC)の特徴としては、P2P型の分散システムで、各ノードがサーバでありクライアントでもあって、PCや専用コンピュータ等の処理能力を持った装置上のソフトウェアによって実現されるもので、通貨発行機能があり、外から通貨が与えられることはない。また、ノード間の共同処理によって、正当な取引記録を確定(承認)でき、一旦確定した取引が非可逆(取り消しや変更が不可)で、通貨の2重使用が不可となっており、各ノードに全取引記録が格納されており、各ノードはいつでも自由にアクセスできることになっている。
このようなBC(BTC)の概念並びに技術は、2008年10月にSatoshi Nakamotoが "Bitcoin: A peer-to-peer Electronic Cash System" という論文を発表して注目されるようになり、2009年1月にBTCが実装され、Nakamoto氏が利用を開始したことが始点となっている。なお、この論文の著者であるSatoshi Nakamoto氏の正体は、今もって不明で、このBTC論文は、複数のメンバーによって作られたとする考えもある。

BTCの運営管理は、2011年にNakamoto氏から離れ、コミュニティに移ったが、2014/2015年頃からBTCの利用が大きく拡大し、それに伴ってトラブルも発生し、仮想通貨に関する各国規制機関の規制が始まった。2016年以降、BTCは投機的対象として利用者が増加し、BTCの高騰と分裂が続いており、セキュリティ事件等多様な課題が顕在化している。ただし、これに伴い、学術面での検討や研究も活発化している

この後、BC/BTCの仕組みについて、更に詳しい解説が行われたが、ここでは割愛する。

BC/BTCの中核機能として、通貨の所有者の名義変更では電子署名が使われていること、通貨の2重使用防止策としては取引の履歴を全てBCとして記録し、全ノードで保管して2重使用検査をしていること、取引記録の改ざん防止策としては複数の取引記録Trをまとめた各blockに直前blockの要約情報を含めてchain化することによって改ざんの困難化を図っていること、取引記録の唯一性の実現のため、『暗号パズル解』の計算(mining)を競争させて最も速いものに報酬(新規通貨発行+取引手数料)を与える仕組みを採用していることなどがあげられる。

なお、BTC/BCでは、参加者(ノード)の識別はBA (blockchain address)のみであり、参加者は、本人確認なしで任意個数のBAを持てるため、身元を明かすことなく取引が可能である。なお、各BAの取引履歴はすべて公開されているため、取引相手のBAとの関係は明らかになる。ただし、匿名化技術もあり、取引の流れを追跡不可能とすることも可能である。

BCの改善・拡張については、最初から最新までの全てのblockによって構成されるBCを漏れなく持っているのは大変なため、自ノードに関連するTrのみ検査する軽量ノードが2012年に導入された。BTCでは、ノードの参加は自由で、参加を管理する組織は存在しない。しかし、参加を管理する組織を設ける考え方もあり、public型、corporate型、private型の3種類に分けることも可能である。
BTCの取引記録を、契約を表すプログラムに変更し、プログラムを自立的に実行する拡張がスマートコントラクトである。このプログラムも公開され、公平に処理され、結果の正しさを随時検証可能であるが、プログラム自体の正当性は保証されていない。このため、ソフトバグにより、大規模な資金流失事件が発生している。PoWは、計算処理に要する稼働が大変なため、PoWに代わる概念の検討が進められており、PoS、PoI、PoC、DPoS等の代替策が提案されている。

BCの応用と動向では、現状、金融分野での応用が進んでいるが、その他の分野では開発・実証実験段階が多く、模索中である。また、法的な面の検討や規制は、後追いの傾向にある。
さらに、BCによって、裏付けとなる信頼や資産等なしに、価値や権利の状態や履歴を全関係者の間で共有し更新する分散システムの実現の可能性が出てきた。ただし、BCは、総合的には未成熟であり、多様な目標のtradeoffの存在を考慮すると、BCによる社会変革の実現には技術課題だけでも、安全性の確保、規模拡大・性能向上、確度の高い合意形成アルゴリズム、仮想社会と現実世界のリンク等課題が山積している。
応用サービスや投資的な側面のstartup / 実証実験から実務重視の運用開発や学術的研究まで、BCに関する取り組みは世界的に多様化かつ活発化しており、その健全な成果と発展に期待したい。

講演の後、BCの安全性の担保問題、最初のBTCの所有者、現実の法定通貨とのレート、BTCの発行元の数等に関する活発な質疑応答が行われ、参加者の今回の講演のテーマに関する関心の高さを実感した。

次回のサテライト会講演会は、本年12月頃の開催で、講師としてKDDIの松永氏を予定しており、5Gサービスの動向について講演してもらう方向で調整している。


 

 

 
 


平成30年サテライト会第1回(5月14日)の模様


平成30年度1回目のサテライト会は、連休明けの5月14日に開催された。遠藤会長より、今回は、これまでと趣向を変えて、講話に先立ってKDDI財団の小島理代子さんに二胡の演奏をしていただき、その後で、KDD OBの松本不二男さんに、「この広い宇宙いっぱい」という演題でご講演を頂くので、清聴をお願いしたいとの挨拶があった。今回は、講師の方々を含めて29名の参加があった。

井上幹事より、二胡奏者の小島さんの紹介が行われた。小島さんは、KDDにオペレーターとして入社され、現在はKDDI財団で毎年恒例のチャリティコンサートの企画やカンボジア支援プログラムを担当されておられる。

二胡演奏の小島さん
一方、中国の楽器「二胡」について、中国人のチェン・ミン氏に師事され、十年以上の演奏の経験を積まれている二胡の名手であると紹介があった。小島さんは、会場である天津飯店に合わせて、「蘇州夜曲」を皮切りに、本日の講話のテーマである「宇宙」に合わせて、Horstの「Jupitar」と「見上げてごらん空の星を」を演奏して下さった。参加者は、二胡の憂いを帯びた音色と素晴らしい演奏に聞き惚れた。


松中幹事より本日の講師の松本氏についての講師紹介が行われた。
講師の松本氏は、1972年にKDDに入社し、保全部から1980年に郵政省電気通信政策局に出向した後、1983年に技術計画部企画管理課に復職され、電気通信事業法の導入後の社内の事業法対応を担当された後、1989年から機器部情報システム課長としてNAISの拡充などを推進された。また、1992年にテレハウス・ヨーロッパに出向、1996年にはKDDテクノロジーに出向された。2000年にKDDを退職された後は、サークルアジア社長に就任、2002年に九州通信ネットワーク社の情報システム部長等を歴任され、2009年には、㈱情報システム管理でコンサルタントとして活躍された経歴をお持ちの方である。


2012年からは、つくば市の図書館や市役所関係でボランティア活動に従事され、2016年~2017年にかけて一般教養講座「この広い宇宙いっぱい」というテーマで6回にわたって講師を務められ、更に2018年から「クラシック巡礼」というテーマで教養講座を始められていると紹介があった。このボランティア活動のテーマを今回サテライト会の会員向けに要点を絞って解説していただくことになった。
KDD時代および出向期間を通じて、情報システムの構築や技術管理畑に一貫して従事され、電気通信事業法の制定後の社内体制の構築や対外折衝で敏腕を発揮されてきた方である。また、最近のボランティア活動に示されるように、科学史や宇宙物理学や天文学のみならず、古典音楽に深い識見と洞察をお持ちで、難しいテーマをかみ砕いて一般の方々に分かり易く解説される取り組みに力を入れていると紹介された。


講演では、冒頭で今年3月に亡くなった英国の天才科学者スティーブン・ホーキンス博士への哀悼の辞が捧げられた。今回の講演のタイトル「この広い宇宙いっぱい」は、昭和40年代に流行っていた森山良子の「この広い野原いっぱい」から流用したもので、この宇宙には、数千億の銀河が存在するとされ、1023個もの恒星があるといわれているのに、どうして夜空は暗いのか? 宇宙の始まりと終わりはどうなっているのか? 等の疑問を少しでも解ってもらえるよう話をしたいとの前振りがあった。

最初のテーゼは、<ジャイアント・インパクト>を取り上げ、月と地球の成り立ちについて解説された。1970年代のアポロ計画で月面にレーザー光線反射鏡を設置したことにより、月が1年間に3.78cmずつ遠ざかっていることが分かり、この結果から逆に時代を遡ると、原始の月は、地球の間近にきてしまうことが分かった。衝突のコンピュータ・シミュレーションの結果、45億年前、火星規模の惑星テイヤが原始地球に衝突し、その衝撃で地球のマントルが飛び散ったが、その一部が原始の月となり、産まれたての原始の月は、地球から2万kmしか離れていなかったと想定できた。
当時の原始の月は、地球に大規模な潮汐作用を及ぼしており、数十mも海面が盛り上がる満潮が起こって生命の進化に寄与したとし、また、1日数時間の自転であったことは、30数億年前のサンゴの化石からも裏付けられているとした。また、月が地球から分離した際、地軸が23.5度傾くことにも関与しており、更に、月面の裏側にある無数のクレーターは、月が外部から飛来する隕石等から地球を護る楯にもなってきたことを明るみにしているとした。


次のテーゼは、銀河系の中で太陽に最も近い恒星である<プロキシマ・ケンタウリ>だった。
プロキシマという接頭語は「太陽に一番近い」という意味である。南天に輝くケンタウルス座には、明るい恒星が二つあり、一番明るいものからα星、β星と命名されている。そのα星をαケンタウリ(4.4光年)と呼ぶが、実は、現代の望遠鏡でよく見ると3連星である。αケンタウリAとαケンタウリBが近接2連星を成し、かつ、0.2光年はなれてプロキシマ・ケンタウリという暗い赤色矮星がαケンタウリA・Bを周回している。太陽からの距離は4.2光年しかない。

この赤色矮星にいくつかの惑星が回っていることが判明した。そのうち、ハビタブル・ゾーン(水が液体で存在できる領域)で回る惑星:プロキシマbの存在が、プロキシマ・ケンタウリの揺れデータの統計的数値分析の結果、推測できた。

地球に一番近い恒星の中で、生命の存在の可能性があるという点で注目されている。ホーキング博士は、この惑星の写真撮影をする宇宙探査計画(スター・ショット計画)を提唱していた。


次のテーゼは、東大の小柴教授が岐阜県の神岡鉱山の地下1000mの坑道に1983年に建設し、超新星ニュートリノを世界初で捉えた<カミオカンデ>だった。この計画は、当初、宇宙線による陽子崩壊で生起するニュートリノの観測を狙いとした。小柴教授は、鉱山の坑道跡に3千トンの純水をたたえられるタンクを設置し、その内側に口径50cmの光電子倍増管3000本を内壁全面に設置し、ニュートリノによるチェレンコフ光を観測するものだった。小柴教授は、カミオカンデが完成する1987年3月に退官することになっていたが、陽子崩壊現象は観測できなかったものの、なんと1987年2月にマゼラン星雲で超新星爆発(II型)が発生し、カミオカンデが11個のニュートリノを観測することに成功した。これにより、小柴教授はノーベル賞に輝いた。
神岡では、その後5万トンの純水を蓄えられ、約1万3千本の光電子倍増管を設置したスーパーカミオカンデが建設され、本格的なニュートリノ・アンテナとして運用されてきている。スーパーカミオカンデは、今にも超新星爆発を起こすと言われているオリオン座の赤色超巨星ベテルギウスの観測への貢献も期待されている。


次のテーゼは、<アンドロメダ銀河とエドウィン・ハッブル>だった。1920年代の天文学の分野での大論争の論点は、「もろもろの銀河は天の川の内にあるのか、外にあるのか?」というものだった。これは、「アンドロメダ銀河は、天の川の内にあるのか、外にあるのか?」という問題に置き換えられる。宇宙空間に浮かぶハッブル宇宙望遠鏡に名前が付けられたハッブルは、ウィルソン山天文台の2.4mの反射望遠鏡を使って、アンドロメダ銀河の観測を行い、セファイド変光星を利用することにより、アンドロメダ銀河までの距離は、90万光年であるという結果を導き出して、アンドロメダは天の川銀河の外にあることを明るみにし、大論争に決着をつけた。しかしながら、この観測データは、後年、別の天文学者により230万光年と修正された。また、1925年には、銀河の分類体系化を行い、更に遠方銀河からの光が赤方偏移を起こしていることを明らかにし、宇宙が膨張を続けていることを明らかにした。これらの功績が認められ、アメリカが打ち上げた宇宙望遠鏡の名前に名を残す栄誉を授かった。


最後のテーゼは、< CMB から WMAP >だった。CMB(Cosmic Microwave Background)は、衛星通信にも関係が深い背景放射雑音に関するもので、ガモフとアルファーが1948年4月に宇宙の始まりの最初の5分間にヘリウムが合成されたと予言したαβγ論文の後に、アルファーとハーマンがビッグバン開始後30万年で宇宙が晴れあがったことを予言した。その名残として、波長1ミクロンの猛烈な光が解放されたというものであった。この電波は、ベル研のペンジアス&ウィルソンが4.08GHzで3.5°Kの雑音が宇宙全体に広がっているという観測に成功し、ノーベル賞を授与された。
また、WMAPとは、デービッド・ウィルキンソンが主導したCMBの放射異方性分布を高精度で観測(MAP:Microwave Anisotropy Probe)しようとした計画である。WMAPより20年ほど先行したCOBE(宇宙背景放射探査機: Cosmic Background Explorer)の分解能は7度程度だったが、その功績が認められ、COBEのメンバーにはノーベル賞が授与された。
WMAPは、MAPの実行最中に逝去したウィルキンソンのイニシャルを冠したものである。WMAPはCOBEの分解能を20倍以上改善させ、0.3度で観測した。この計画では、日本人の当時東北大の博士課程の大学院生だった小松英一郎氏が抜擢され、この計画の数理解析チームで中心的な役割を果たした。最大の成果は、WMAPの観測データから、世界で初めてパワー・スペクトルを浮き彫りにしたことである。その結果から、例えば、宇宙の物質密度はどれくらいなのかという問題の解明に大きな貢献をしている。小松氏等の分析結果により、宇宙の年齢が137億年±1億年と算定され、ダークマターの物質密度割合などの様々な課題の解明に大きな影響を与えているとした。

講演の後、活発な質疑応答が行われ、参加者の今回の講演のテーマに関する関心の高さを実感した。

講演後の遠藤会長からの挨拶の中で、最近世界各国で打上げが増大している1辺が10㎝程度のピコサット衛星に関して、宇宙空間の物体の検知能力を勘案し、米国のFCCが衛星への衝突の可能性の増加を防ぐため、1辺が10㎝以下の衛星の打上げを認めないようにしようという動きがあるとの紹介があった。

次回のサテライト会講演会は、本年9月頃の開催を予定しており、詳細は、別途案内するとされた。

 

 

 

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平成29年
 

平成29年度サテライト会総会開催模様(12月1日)


平成29年度3回目のサテライト会は、本年最後の会合だったため、総会を兼ねて実施された。冒頭、遠藤会長より、今回は、講師に井ノ上直己KDDI 総合研究所メディアICT部門研究マネージャーをお迎えし、「未来社会においてAIは何ができるか?」という演題でご講演を頂くので、清聴をお願いしたいとの挨拶があった。今回も最近関心が高まっている興味深い演題だったため、36名という多数の参加をいただいた。

続いて稲垣幹事より、平成29年度の活動報告と会計報告および平成30年度の活動計画(案)について報告があり、承認された。なお、活動報告に絡めて参加人数の推移について報告があり、今年度の参加者数は、講師の方を含めて37名、37名、37名となっており、盛況が続いているとした。なお、最近KDDI総合研究所の方に講師をお願いするケースが増えており、社外講師の方で協力いただける適任者についての情報提供の依頼があった。来年度の幹事については、遠藤会長以下幹事も同じ顔触れを予定しているが、毎年1歳ずつ年を重ねているため、若い方の協力をお願いしたいとの補足があった。また、直前3回の会合で、連絡がなく欠席された方が7名おられた一方、連絡がなく直前に参加された方が5名おり、参加費はぎりぎりの設定で行っているため、止むを得ず参加できなくなった場合、遅くとも前日までに幹事にご一報をお願いした。

続いて、井上幹事より、KDDI財団が毎年開催している「チャリティコンサートクラッシック」を来年2月21日に紀尾井町ホールで予定しており、カンボジアやミャンマーの学校の教育支援に使われているので、是非ご協力をいただきたいとの紹介があった。

井上幹事より講師紹介が行われ、井ノ上氏から次のような補足があった。講師の井ノ上氏は、1984年にKDDに入社し、1987年にATR自動翻訳研究所に出向したのを皮切りに1991年にKDD研究所に復職したが、2005年にATRメディア情報科学研究所に出向、更に2009年にはNICTに出向と、34年間の会社勤務のうち16年間社外出向しているという珍しい会社員であるとした。また、奈良県の出身で出向先は京阪奈にある研究機関だったため、仕事がやり易かったとされた。これまでのKDD研究所時代および出向期間を通じて、音声認識、自然言語処理、音声翻訳、情報検索分野の研究に一貫して従事してきたとされた。

講演では、先ず人工知能(Artificial Intelligence: AI)の定義についての解説があり、最近AIとして思い浮かべるものとして、自動運転車、囲碁&将棋、お掃除ロボット、AIスピーカー、iPhoneのSiri、対話ロボット等を挙げ、AIとは、デジタル大辞泉によれば、『コンピュータで記憶、推論、判断、学習を行い、人間の知的機能を代行できるようにモデル化されたソフトウェア』とした。更に、AIには、2種類のAIがあるとし、特定の決まった作業を行う特化型AIと、特定の作業に限定せず人間と同様の、あるいは人間以上の汎用能力を持ち合わせているAIに分けられるとした。前者は、弱いAI、後者は強いAIである。

 


続いて、AIの歴史的な位置づけについて、総務省情報通信白書を引用して解説があった。
① 1950~1960年代: コンピュータによる「推論」や「探索」が可能となり、特定の問題に対して解が提供できるようになった。自然言語処理による機械翻訳が特に注力された。

② 1980年代: 知識を与えることで人工知能(AI)が実用可能な水準に達し、多数のエキスパートシステムが生み出された。医療診断用エキスパートシステム等、知識/モデル等のエキスパートシステムの構築に関する研究が主流だった。

③ 2000年代~: 「ビッグデータ」と呼ばれている大量のデータを活用しAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化された。次いで、知識を定義する要素(特徴量)をAIが自ら学習するディープラーニング(DL)が登場したことが、AIブームの背景にある。


更に、機械学習とディープラーニング(DL)の動向について解説があった。AIの進化を支えている技術として、画像認識技術の飛躍的な進歩について紹介があり、例えば、機械が猫と犬と狼を区別/識別する精度がDL技術の採用により飛躍的に向上しているとし、2012年までは、16.4%以上だった性能が、2014年に7.3%、2016年には3.57%になってきているとし、この精度は人間の5.1%を上回るレベルに達しているとした。
この進歩の鍵は、従来の機械学習では、入力画像から特徴を抽出する際に用いるパラメーターを人間が設計していたのに対し、DLでは、特徴およびリンクの重みを機械が獲得するようになってきたことが大きいとした。

DLに関する研究は、米国の主要IT企業が研究をリードしており、ソフトウェアがオープンソースで提供されている事も、大きな要因となっているとした。

 

最近のAIの研究動向について紹介があり、画像認識や音声認識の性能が向上してきているが、理解/判断の機能はまだまだ不十分で今後の課題であるとした。現在のAIの研究開発の主流は、弱いAIに関する研究が主体であるとした。具体的なビジネスへの応用分野としては、自動運転、顔認証、医療診断、無人コンビニを挙げた。

更に、自然言語翻訳への適用分野について言及があり、昔から研究されてきた機械翻訳の現状は、言語は一文だけ見ても正しく翻訳するのは難しく文脈を考えて翻訳しないと正しい翻訳ができないので、まだまだ発展途上であるとした。最近注目を浴びている商品としてAIスピーカーについても言及され、Amazon EchoやGoogle Home、Line Clova等は、簡単な要求に対する応答しかできない商品であるとした。また、AppleのSiriも、DLを活用したAIではなく、概念モデルの数や種類を幾つも用意して応答している商品であるとした。

最後に、KDDI研究所におけるAI関連の取組について紹介があった。
●多言語翻訳: サーバ経由で音声翻訳 ⇒ 開発システムの訪日外国人向け実証実験中
●SNS分析:  言語を分析して推定、ただし、DLを用いたものではない。

まとめとして、最近注目を浴びているAIは、画像認識性能が人間を上回るほど進化したことによるもので、自動運転や医療診断に代表される画像認識技術を有効に活用できる応用分野で今後も発展が期待され、特定の機能を代行する特化型AIが主流であるとし、人間と同等あるいは人間以上の能力を持った汎用型AIのレベルは、まだまだ不十分でAIが人間を支配するようになるのは、まだまだ先のことであるとした。ただし、AIの進化は目覚ましく、自動運転も高速道路だけであれば実用段階に達しつつあるとした。

講演の後、活発な質疑応答が行われ、参加者のAIに関する関心の高さを実感した。

 

 

 

 
 

平成29年度第2回サテライト会開催模様(9月14日)


平成29年度2回目のサテライト会は、講師に 岸 洋司KDDI 総合研究所執行役員次世代アクセスネットワーク部門長をお迎えし、「au x HAKUTO Moon Challenge」という演題で講演していただいた。興味深い演題だったためか、36名(申し込みは38名)という多数の参加をいただき、盛況であった。今回は、塚田一幸氏および千葉正美氏が初参加されたので、近況報告をしていただいた。

井上幹事より講師紹介が行われ、岸氏から次のような補足があった。


講師の岸氏は、1991年にKDDに入社し、KDD研究所に配属され、NW設計グループにてNW設計や回線構成に関する研究に従事した。当時の上司は、伊藤泰彦室長で、渡辺 裕氏、渡辺文夫氏、水池 健氏等に大変お世話になった。1990年代後半は、セルラー系システムのNW設計支援や、周回衛星システムの実用化プロジェクトに従事し、ICOの管制システムの開発等に従事した。
2012年より、本社の法人ソリューション推進本部に異動し、ソリューションプロジェクトの仕事を担当した。その後、2016年にKDDI研究所に復職したところ、今回の「HAKUTO」に対するKDDIの技術支援プロジェクトの担当を命じられ、現在に至っている。


岸氏は、先ず「Google lunar Xprize」についての説明から始めた。これは、Googleによる社会貢献プログラムの一つで、2007年9月に「Google Lunar XPRIZE」計画として発表されたもので、3つのMissionを規定し、2018年3月末までに民間主導で、①月面探査機を月面に着陸させ、②月面を500m以上移動し、③月面から高解像度の映像を地球に最初に送信したチームに30M$の賞金を与えるというGoogle月面探査レースを提唱し、将来の宇宙の資源探査への民間活力の導入を支援するというものであった。


HAKUTOが開発を担当した月面移動車
出典: https://au-hakuto.jp/about/sorato/

この月面探査レースには、世界各国から32チームが参加を表明し、日本からは、iSpace社が参加を表明した。この会社は、2020年代に月への資源探査を目指して設立されたVenture企業で、代表の袴田武史氏が中心になって、「はやぶさ」の機体開発を担当した東北大の吉田和哉教授等が共同開発者として参画しており、この他にも多くの専門家がパートタイムボランティアーとして開発に関与している。日本チームは、当初オランダのWhite Space Level社と提携し、レースに参画し、オランダが月面探査機本体を担当し、日本の袴田氏がWhite Space Level Japan社を設立し、月面移動車の開発を分担することで進んでいた。2013年には、日本のチーム名を「HAKUTO(白兎)」に変更し、日本から唯一参加するチームとして活動してきた。しかし、2016年、オランダの会社が開発資金難で月面探査レースからの撤退を表明したため、インドのチームと提携することに変更し、開発を継続しているとした。

KDDIは、2016年3月にチーム「HAKUTO」とOfficial Partner契約を締結し、技術面&資金面で本プロジェクトを支援することになった。ここで、講師の岸氏が本プロジェクトのKDDIの開発統括窓口として本プロジェクトに本格的に参画することになった訳である。

本プロジェクトにおいて、KDDIは、これまでの通信技術に関する実績を買われ、①月面からの映像伝送システムと②月面移動車(Rover)と月面着陸船間の通信システムの開発を担当している。
①の映像伝送システムでは、月面移動車を遠隔で制御するための準リアルタイム映像(NRT映像、320x240以上)とハイビジョン映像(HD映像、1280x720以上)を月面から地球に送るための画像圧縮技術&復元技術の開発が求められている。また、②の通信システムでは、総重量4kgという月面移動車の制約の中で、簡易な民生部品構成にて低消費電力で高信頼度の通信システムを実現する技術が求められており、通信を途切れさせることなく全ての情報伝送を100kbps程度の超低帯域で伝送する通信網の構築が必須とされている。
これらの要求を実現するため、研究所では、2.4GHz帯と900MHz帯の無線LAN技術を用いて実現するシステムの開発を進め、新型アンテナの開発を行い、電波無響室での試験や、鳥取砂丘での実証実験を実施してきた。
2016年にオランダが月面探査レースから撤退することになり、2016年12月に月面着陸船の相乗り先を”Astrobotics”からインドの”TeamIndus”に変更した。この変更にあたっては、いろいろな技術検討やインターフェースの擦り合わせが必要となった。この変更の過程で、月面で利用する周波数帯が2.4GHz帯のみとなり、月面着陸船の寸法も変更になったため、Roverに搭載するアンテナの機構変更が必要となり、アンテナを月面に着陸後に伸展させる構造に変更した。2017年8月に月面の状況に近い鳥取砂丘でフィールド試験を実施し、300m超の距離での伝搬試験やクレーターに模した砂丘で様々な試験を実施し、貴重なデータを得ることが出来た。
2017年1月にGoogleによる月面探査レース参加チームの開発状況の進捗度に関する中間評価審査が実施され、チーム「HAKUTO」は、残っている16チームのうちから5チームが選定された”Finalist”のうちの1チームに選出された。なお、チーム「HAKUTO」には、KDDIの他に、スズキ自動車、IHI、JAL、セメダイン等がスポンサーとして支援している。
今年の1月時点で”Finalist”に選出された5チームは、以下のとおりである。

 

2017年2月には、月面移動車Roverは、命名コンテストの結果、”SORATO”「宙兎(そらと)」と命名された。”SORATO”は、インドのPSLV-XLロケットにより、月面着陸船”HHK”および月面移動車”ECA”と共に、2017年12月28日にインド洋に面したインドのシュリーハリコータ基地より打上げられる予定になっている。打ち上げ後は、地球周回軌道上で各種機能試験が実施された後、月面着陸目指して月の周回軌道に投入され、最終的に月に着陸し、最終ミッションが実施される計画になっており、2018年3月までに全てのミッションを完了する予定になっている。

岸氏の講演の後、参加者から活発な質問が多数寄せられ、今回の案件に対して参加者が高い関心を持っていることが立証された講演だった。

遠藤会長より、次回は、11月ないし12月の開催を予定しており、テーマとしては、AI(Artificial Intelligence)関連を予定しているとの紹介があった。なお、今回のサテライト会には、事前に38名の参加申し込みがあったが、このうち3名の方が事前の連絡がなく、欠席されたという事態になり、今後の会の運営に支障を来すため、事前の連絡の徹底をお願いしたい。

 

 

 

 
 

平成29年度第1回サテライト会開催模様(5月23日)

平成29年度最初のサテライト会は、講師に 平林 久 JAXA名誉教授をお迎えし、「進化する宇宙と電波天文学」という演題で講演していただきました。講演の演題がワクワクする内容だったため、36名という多数の参加をいた

今回の講演に先立って、平林名誉教授が東大大学院在学中から茨城衛星通信所の施設を利用した電波天文研究で親交のあった横井氏より今回の講演を引き受けていただいた平林名誉教授に関する紹介が行われた。

講師の平林氏は、1943年に長野県で生まれ、東京大学理学部&同大学院に進まれ、KDD茨城衛星通信所の施設を利用した電波天文に関する研究で理学博士号を取得されている。この頃、KDD研究所は、電波星を利用した大口径アンテナの利得測定技術の確立で平林氏を含む東京大学の諸先生方に大変お世話になったとされた。

1972年より東京天文台野辺山宇宙観測所で電波天文観測&研究に従事された。その後、1988年より宇宙科学研究所で電波天文衛星「はるか」による国際観測研究プロジェクトのリーダーとして活躍された。2007年より宇宙教育センターで未来を担う子供たち向けの教育活動に従事されている。2009年よりJAXA名誉教授に就任され、更にNPO法人「子ども、宇宙、未来の会」の会長として宇宙研究の啓蒙活動に積極的に取り組まれている。
講演の冒頭に、平林氏より、大学院時代にKDD茨城衛星通信所のミリ波帯アンテナ等の施設を利用した電波天文観測の機会をいただき、横井氏&佐藤氏はじめ当時のKDD関係者の方々に大変お世話になったとして感謝の言葉が述べられた。

講演では、平林氏が得意とされている野辺山電波天文台のイラスト画が示され、中央に45m大口径アンテナと600mのスパンに設置された太陽電波観測干渉計が描かれ、右上にVLBI(Very Large Baseline Interferometry)アンテナ群が描かれたイラストの解説から、電波天文学がどのように始まり、進化してきたかについて解説された。
電波天文学は、比較的新しい学問分野で、ハッブルが1929年に「宇宙は膨張している」というハッブルの法則を発表し、Jansky が1932年頃に宇宙の天の川の方向からの電波を発見した。更に、1946年にガモフが、時間を戻してやると1つに収束する始まりがあるとする Big-Bang 理論を提唱し、この時に水素とヘリウムができたとした。

なお、1965年に Wilson らが、宇宙からの電波は Big-Bang に伴う宇宙背景放射であることを明らかにして、1978年にノーベル物理学賞を受賞している。1967年には、Jocelyne-Bell Burnell と Anthony Hewish が世界で初めての電波パルサー(CP1919)を発見した。また、1974年に Hulse と Taylor が近くで連星パルサー(PSR1913+16)を発見し、重力波の存在を間接的に検出し一般性相対理論の有効性を検証したとして、1993年にノーベル賞を受賞している。1969年にパルサーが発見されたかに星雲は、藤原定家が明月記で 超新星爆発の模様を記録していることで有名だが、爆発後中性子星になっている。この星は、中性子だけでできているが、これより質量が大きいとブラックホールになる。白鳥座X-1には、太陽の質量の10倍程の重さのブラックホールが見つかっており、近くにある太陽の質量の30倍の星のガスを吸い込んでいる様子がX線で観測されている。

電波観測技術のエポックとしては、1962年に Martin Ryle が1.4GHzを用いて1マイル干渉計を作り電波観測装置の精度を飛躍的に向上させる理論を打ち立て、1974年にノーベル賞を受賞している。電波天文分野でのノーベル賞で観測技術分野にて受賞したのは、今までのところ、この1件だけである。この電波干渉計の技術は、その後電波天文観測の分野で世界の潮流となった。米国ではVLA (Very Large Array)が建設され、開口径25mΦアンテナ25台をY字型に最長35km基線に設置し、85MHz~86GHz帯の電波観測を可能とするシステムを構築しているとした。この技術は、更に地球を周回する衛星と地上アンテナを組み合わせたVLBIに発達している。

平林氏は、1960年代は、日本の電波天文学の進歩の黎明期であったとして、平林氏の研究活動とKDDと電波天文学の関わりについての紹介があった。当時の東大では、故人となった赤羽教授、森本教授が中心となり、KDDの横井氏&佐藤氏と大口径アンテナを用いた電波天文観測システムの構築ならびに観測技術の確立に奔走された。また、KDDの7mΦミリ波アンテナによる観測結果を取りまとめた論文が平林、横井、森本の連名でNatureに掲載され、平林氏の博士論文にも繋がったとの紹介があった。

次いで、野辺山電波観測所の設備についての解説があり、1982年に電波を用いて宇宙や銀河系を観測するため、45mΦの電波望遠鏡や600mの基線長を持つミリ波開口合成干渉計が建設され、併せて太陽活動を観測するため、太陽電波強度偏波計;ラジオヘリオグラフが建設されたとし、電波でみた太陽表面の活動の様子を紹介した。
この後、電波と光の望遠鏡で見える世界の違いについて、アメリカ国立天文台が電波と光で見た映像を紹介し、全く別の世界が見えていることを銀河の中央方向の観測結果で解説してくれた。光の場合、大口径望遠鏡でも10万光年程度しか見えないのに対し、電波望遠鏡では、クェーサーやブラックホールに吸い込まれる星のジェット等何十億光年も遠くの天体の様子が見えてくるとした。

VLBI観測技術については、世界各国に設置されているミリ波帯電波望遠鏡を組み合わせて、実効開口径10,000kmの望遠鏡を実現しており、この実験では、臼田の64mΦ深宇宙探査用アンテナが用いられた。また、1986年には、TDRS衛星と臼田とオーストラリアの電波望遠鏡を使ったSpace-VLBI実験が行われ、地球規模の望遠鏡が実現できることを実証し、1988年まで継続した。
この後、この構想を更に拡張して地球の自転と周回衛星の動きを利用して、全天観測する構想の解説があった。この計画は、1988年12月にVSOP(VLBI Space Observatory Programme) として、宇宙科学研究所/東京天文台が提唱し、Muses-B衛星構想としてJAXAが中心になって進められ、これを機に平林氏も宇宙科学研究所に移籍した。この衛星は、1997年2月にM-V1号機で打ち上げられ、「はるか」と命名され、国際的な宇宙観測に貢献した。地上設備としては、臼田の64mΦアンテナと「はるか」のVLBIリンク局用10mΦアンテナが建設され、この構想に米国NASAも1993年に追跡局4局を作って協力し、臼田と併せて5局で追跡した。更に、国際的な研究計画のためにこのシステムを運用するポリシーと実験プログラムの日程調整を行う仕組みを新たに開発した。

「はるか」の映像の実力について、M87銀河の中心部の様子やNGC4261銀河の中心部について、光学望遠鏡として最強のハッブル望遠鏡の映像とVSOPで得られた映像を比較する形で解説され、VSOPの威力が素晴らしいことを示された。
また、現在解明が待たれているブラックホール(BH)の観測については、光では難しいBHの観測がX線と電波では可能になるとして、宇宙全体の仕組みの解明やBHの成り立ちについての今後の検束結果への期待が紹介された。

最後に宇宙観測分野におけるノーベル賞の受賞結果を分析したものが紹介され、これまでに8件受賞しているが、観測機器に関するものは、1件のみで、残りは、宇宙背景放射、パルサー発見、連星パルサーによる一般相対性理論の検証等、観測結果の受賞案件が6件を占めているとした。また、2016年にLIGO (レーザー干渉計重力波天文台) は、ブラックホール同士が合体した際に発生した重力波を直接観測できたと発表しており、ノーベル賞の最有力候補であるとした。
今後は、日本の「かぐら」による重力波検出が期待されているとした。
電波天文の最近の関心は、FRB(Fast Radio Burst) の謎の解明で、宇宙から到来している再現性のない1ミリ秒だけの短いパルスの出所についてである。このFRBの正体は不明である。
また、ガンマ線バースト(GRB)について説明があり、GRBの短い継続時間のものは、別々の中性子星が合体して、ブラックホールになる現象といわれており、更なる研究が必要である。また、GRBの長い継続時間のものは、もっと重い質量の星の極超新星爆発(ハイパーノヴァ)によって生ずると言われており、こちらも更なる研究が求められているとした。
殆どの銀河の中心に超巨大ブラックホールがあること、それが宇宙の初期に既にできていたことが分かってきました。これがどのようにしてできたのかは、天文学上の大きな謎であるとした。

平林氏の講演は、電波天文学の進化の歴史について、具体的な観測結果を裏付けにして、分かり易く解説され、内容が多岐にわたり、当初の講演時間を超過し、参加者からの活発な質疑応答も行われ、盛況理に終了した。

 

 

 

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平成28年
 

平成28年度サテライト会総会模様(11月24日)


 遠藤会長よりKDDI総合研究所の小野智弘氏を講師にお迎えし、「KDDI総合研究所における位置情報ビッグデータとソーシャルメディア解析技術」という演題でご講演をいただきますとの挨拶があった。 続いて、稲垣幹事より、平成28年度の活動報告と会計報告および平成29年度の活動計画(案)について報告があり、承認された。 なお、活動報告に絡めて参加人数の推移について報告があり、今年度の参加者数は、31名、40名、30名となっており、会員の高齢化によりやや減少の傾向にあるとした。来年度の幹事について、遠藤会長以下幹事も同じ顔触れを予定しているが、毎年1歳ずつ年を重ねているため、若手で協力していただける方がおられれば是非協力をお願いしたいとの補足があった。 また、今回も連絡がなく、欠席された方がおられるが、参加費はぎりぎりの設定で行っているため、止むを得ず参加できなくなった場合、遅くとも前日までに幹事にご一報をお願いした。

 今回の会合には、若原 恭 氏が初めて参加されたので、近況報告をしてもらった。 KDDI研究所では、交換機やネットワーク関連の研究が長く、無線や衛星通信分野とは縁がなかったが、平成11年に東京大学情報基盤センターに奉職した後、TAOにおられた桜井啓市氏の次世代LEOの研究で一緒にLEO関連の研究を行い、衛星通信分野に触れたことがあるとの紹介があった。 なお、平成27年3月で東大を退官し、年金生活に入っていると紹介された。
 続いて、井上幹事より、KDDI財団が毎年開催している「チャリティコンサートクラッシック」を来年3月1日に紀尾井町ホールで予定しており、カンボジアやミャンマーの学校の教育支援に使われているので、是非ご協力をいただきたいとの紹介があった。
 講師の小野氏は、平成6年にKDDに入社してKDD研究所に配属れ、ネットワーク管理やデータベースに関する研究に従事した。 その後、平成11年の米国スタンフォード大学、平成16年の産総研の出向(併任)にて、コンテンツレコメンデーションを中心としたビッグデータ解析の研究や実用化に従事。


 その後はTwitterの登場とともにソーシャルメディア解析に着手、平成24年にはKDDIアメリカのシリコンバレーオフィスにて研究所技術の外販と米国の最先端技術の調査にあたった。 現在は、KDDI総合研究所の執行役員兼グリーン・クラウド部門長兼データマイニング応用グループグループリーダーとして、位置情報をはじめとするビッグデータ解析に関わる研究開発を統括されている。
 講演では、本年10月1日にKDDI研究所(約260名)とKDDI総研(約40名)が統合して発足した(株)KDDI総合研究所について紹介があり、新たなミッションとして、「新たな価値創造と人に優しい社会を目指して」、調査分析から研究開発、そして実用化までを一貫体制で進められる組織が誕生したとした。
そして、本日の第1のテーマである「位置情報ビッグ データ解析」の狙いとして、通信企業からライフデザイン企業への変革を目指し、通信企業ならではの保有データである位置情報ビッグデータを活用し、様々なライフデザインサービスのお客様に対する位置ターゲティングや店舗最適化、地方自治体向けサービスなどの新たな収益につなげることを目指しているとした。

 位置情報ビッグデータとしては、基地局から収集されるデータと携帯端末からアップロードされるデータの2種類があり、個別に同意を頂いたお客様についてのこれらのデータからヒトの流れを解析、プライバシーを配慮した秘匿化・統計化を経て社内外で活用できるようになったとした。 具体的な事例として、箱根観光客の分析結果の紹介があった。 この事例では、観光客が車の利用か電車の利用かを推定、それぞれの動線を分析し、交通手段の違いで観光パターンが大きく異なることがデモンストレーションで示された。


 続いて、第2のテーマであるTwitterやFacebook等に代表されるソーシャルメディアの解析技術や応用事例について紹介があった。 最初にTwitterやFacebookの世界および日本での利用者数と年代別利用 者数の動向について紹介があり、世界的には約15億人対3億人とFacebookの利用者が多いが、日本では約2400万人とほぼ同数で、Twitterは10代を中心に利用者数が伸びているそうだ。 企業では近年、様々なお客様の声を収集する目的、あるいは競争相手や提携企業の動向把握を目的とした利用形態が増加している。 ただし、ソーシャルメディアデータを利用するに際しては、サイレントマジョリティの見落とし可能性、ソーシャルメディア利用者に偏りがあること、悪意の発言等の課題があり、注意が必要とした。具体的な事例として、KDDI研究所がTwitter創成期から取り組み、WBSの「トレンドたまご」で放映されたTwitter分析システムの紹介がなされた。
 Twitter投稿者の過去のつぶやきを一定数分析することで、投稿者の属性を70-80%の精度で推定できるとのこと。 これにより、「今、開催中のイベントは20代のコメントが増加していて、そのうち男性からの評判が良い」などの詳しい意見をリアルタイムで収集ができ、企業は効果的な対策を早期に打てるとのこと。
 最後に、通信キャリアならではの位置情報の解析、ビッグデータや外部データの分析を通じて、au経済圏の拡大、お客様満足度の向上に貢献していきたいとして講演をしめくられた。
 講演終了後の質疑応答では、ソーシャルメディアの解析精度の限界要因やクラウドサービスの活用可能性、米国の大統領選挙結果とソーシャルメディア分析の差等についてなど、沢山の質問が寄せられ、活発な講演会になった。

 

 

 

 
 


平成28年度第2回サテライト会開催模様(9月16日)

 今年2回目のサテライト会は、遠藤会長より、「ミャンマーの携帯電話事業の競争力改善に尽力し、今年3月に帰国され、現在KDDIエンジニアリングで活躍中の小野健一氏を講師にお迎えし、“ミャンマーってどんなところ、KDDIの取組ってどんなもの”という演題でご講演をいただきます。」との挨拶があった。


 講師の小野氏は、昭和49年にKDDに入社して茨城衛星通信所にて運用・保守に従事した後、昭和56年より4年間パラグアイに衛星通信専門家として派遣された。昭和60年に本社衛星伝送部に配属され、マイクロ波伝送路建設に従事した。平成11年から3年間、26/38GHz帯を用いたFWA事業を提供するKDDWinStarでFWAネットワーク構築事業に参画した。平成12年のKDD、DDI、IDO等の合併を経て、平成14年にKDDI本体のNW建設部署に戻り、マイクロ波伝送路建設、モバイル基地局建設に関わった後、平成17年からNW建設部門の部長としてアクセス網・光NW構築の、また、その後、モバイル建設部門の部長としてモバイル基地局建設の、陣頭指揮にあたられた。平成21年にはKDDIテクニカルエンジニアリングサービス(現KDDIエンジニアリング)の執行役員に就任し、その後、取締役執行役員専務となられ、経営の一翼を担う形で活躍されている。


 小野氏は、平成26年にKDDI顧問として、ミャンマーの電気通信事業に参画され、現地子会社のKDDI Summit Global Myanmar Co. Ltd. (KSGM)社のDirectorに就任し、現地国営通信会社であるMyanmar Posts & Telecommunications (MPT)とのJoint OperationのCTOとして、同国の電気通信事業の発展のために、これまでに培った技術と経験を発揮され、特に、同国のモバイル・インフラの革新に辣腕を振るわれ、ミャンマーのモバイル事業の競争力強化に大きな貢献をされた技術者&経営者である。

 講演では、小野さんが、先ず、「最近のミャンマー事情」についてということで、“ミャンマーはどこにあるの?”というテーマから始められ、ミャンマーは、北緯10度から28度の間に位置し、南北に伸びる長い国土が特徴で、北緯23度26分の北回帰線が中央部付近を横切っており、タイ、バングラディッシュ、中国に国境を接している国であり、北の中国国境は5000mを超える山を含む高地で、南西はベンガル湾に面しており、国の中央を南北に国のシンボルとも言われているイラワジ川が流れており、その流域は中部から南部にかけて平坦な地形を形成し、東部は広い高原地帯となっており、日本より、はるかに広い利用可能なスペースがある国という感じであるのに、人口は約5千万人で、人口構成も若い世代の比率が高く、今後の成長が期待される国である、との紹介があった。
 更に、同国は多民族国家であり、135民族からなっており、民族間の争いが大きな課題の一つであるとした。ただし、国民の90%が仏教徒であり、仏教も同国のキーワードであるとした。
 続いて、ミャンマーはどんな気候?というテーマで、雨季が5月~10月、乾季が11月~4月となっており、4月が最も暑く、雨季は雨のおかげで気温が下がる等の説明があった。また、ミャンマーは何が採れるの?というテーマで、南部は稲作&水産物、高原地域は野菜や果物、乾燥地域は落花生や胡麻が主な産品であるとした。また、鉱産物では、翡翠やルビーの埋蔵量が多く、石油やガスは中国向けの主要輸出産業になっているとした。
 ミャンマーの輸出入の相手国では、輸出はタイ、中国、インド、日本、シンガポールの順になっており、輸入は中国、シンガポール、日本、タイ、マレーシアの順になっており、アジアの国との貿易が中心になっているとした。
 更に、ミャンマーの観光資源について、仏教寺院や遺跡について写真での紹介があった。また、ミャンマーにおける食事処&食料品事情では、日本料理店が増えているとしつつ、中国国境に面したシャン地方の料理が、中華料理の影響を受けているようで、おいしく感じた等の紹介があった。
 ミャンマーの医療事情については、医療環境はまだまだ悪く、重症になると、バンコクやシンガポールに行かなければならないが、最近は、SOS InternationalのBranchやVictoria Hospitalに日本人医師が配置され、日本人にとって診察・治療を受けやすい環境が整備されてきているとした。
 交通・輸送手段では、鉄道はかなり広い範囲に広がってはいるが、質が非常に悪く、極貧層のみが利用するような状態であること、基本、車が移動・輸送の中心であるが、ヤンゴンは恒常的な渋滞が発生しており、マンダレーでは2輪車が我が物顔に走って極めて危険、というような紹介があった。国が広いため、近隣の街等には車でも動けるが、遠方の都市間の移動には、もっぱら航空機が利用されており、ミャンマーの国内空港は49空港があり12社が運航しているとした。


 次いで、ミャンマーの歴史についての紹介があり、現在ミャンマーを率いているアウン・サン・スー・チーさんの名前の由来や、苗字と名前の区別はないこと、という話から始まり、9世紀のミャンマー王朝成立から、1942年に日本がビルマを制圧したものの、1945年に英国に敗れ、その後、アウン・サン将軍が英国からの独立運動を指導し、1947年に独立を勝ち取った話や、2015年の新民政移管選挙までの紹介があった。
 この後、本日の主題であるミャンマーの電気通信事情ならびにKDDIによるミャンマーの携帯電話事業への参入後の活動の紹介があった。
 ミャンマーでは、通信網の整備が遅れており、固定電話の普及率は0.99%、携帯電話は5.43%と劣悪な環境にあった。2012年に新通信法が制定され、モバイル市場への外資参入が認められ、KDDIも住商と組んで入札に参加したが、国際入札の結果、ノルウェーのテレノール、カタールのオーレドゥーが落札するという結果となった。
 その後、これまでミャンマーの通信サービスを担ってきたMPTが、このままでは新規参入の外資企業との競争に対抗出来ないとの懸念から2014年にMPT支援企業を募集するための国際入札が行われ、様々な働きかけや提案内容の充実さが功を奏し、KDDIと住商の日本連合が提携先に選定された。
 今回の支援事業の形態は、Business Co-operation Contract(BCC)というもので、新たに共同で新会社を作るのではなく、それぞれ、人、物、金を出しあい、別会社のまま共同で事業を行い、収益を分け合うというものであるが、MPTは土地、施設、これまで構築した電気通信設備と要員などを提供し、これに、日本連合が新たな投資のための資金を用意し、技術支援、サービス開発支援、営業支援要員などを提供し、Joint Operationという形態で仮想の組織を作り、事業を行う体制をとったものである。KDDIと住商は、KSGMという現地法人を設立し、両社が業務、技術、営業の要員を出向させるとともに、本体からの専門家の出張により、支援事業を推進する体制を組んで、対応している。
2014/7/16にJoint Operation Agreement(JOA)署名、2014/9/1にCommencement Date(JO活動開始日)により実質、本格的活動が開始し、2015/3/20にJOA完全効力発行という極めてタイトなスケジュールで動き出した。
 ミャンマー政府は、外資導入を予定した時点の計画としては、電話普及率を2013年:10%、2014年:27%、2015年:50%、2016年:75~80%と想定していた。

 日本連合は、既存のモバイルのエリア品質の改善作業を手始めに、全国のエリアカバー率の改善に取り組み、2016年4月時点にて人口カバー率で90%台後半まで改善している。
 ミャンマーのモバイル・インフラ構築作業は、道路施設の整備が遅れているため、ルーラル地域の工事では、牛や人力による人海戦術で工事を行ったところもあるとし、現地の作業の厳しさについて写真等を用いて紹介された。
 外資との競争は、日本連合の支援により、MPTがシェア首位を維持しているが、特にテレノールは、途上国での経験も豊富で、さまざまな機材、豊富な人材を投入し、また、MPTより常に安い料金を売りにして攻めてきており、追い上げが厳しいとの説明があった。MPTとしては、価格競争に陥るのを避けながら、エリア品質の良さ、新サービスの投入等で優位性を確保してきているが、大変苦しい状況とのことであった。

 盛り沢山の内容で、講演は盛り上がり、講演終了後も活発な質疑応答が行われた。
今回の講演会は、連休前だったが、参加者数は講師の小野さんを含めて40名と久しぶりに盛況だった。

 

 

 

 
 

平成28年度サテライト会第1回(5月12日)の模様

 今年最初のサテライト会は、遠藤会長より前国際ケーブルシップ社長で現在KDDIエンジニアリングの矢田部亮一氏を講師にお迎えし、今回はこれまでとがらりと変わったテーマである「落語の楽しみ」という演題でご講演をいただきますとの挨拶があった。


 また、遠藤会長は、今年は厄年のようで、1月にARIBの新年会時に意識を失って救急車で病院に搬送された事件や、4月に実家のお墓参りに行った際、一般道路を逆走して、生まれて初めて交通違反切符を切られた事件等の顛末を紹介しながら、加齢による健康面の衰えや注意力が散漫になってきたことを実感しているとされ、会員の方々も健康維持に留意してもらいたいと締めくくられた。
 今回の会合には、矢部静樹氏が初めて参加されたので、近況報告をしてもらった。 KDD OB会の一つである南山手会にもサテライト会のメンバーが多数参加しており、かねてから興味があったが、今回の講演会の演題が落語ということで思い切って参加させてもらった。 現在、欧州の運河をヨットやボートで周遊する会社の日本代理店をしており、ゆっくりと欧州を旅行することに興味がある方は連絡してほしいと紹介された。


 また、英国暮らしが長い関戸氏が久しぶりに帰国され参加されたので、近況報告をしてもらった。 娘さんが福島県から岡山に移住して農業を始めたので岡山に行ってきたとし、相変わらず元気にトライアスロン等様々なことに取り組んでおられるとの紹介があった。
 講師の矢田部氏は、昭和55年にKDDに入社して茨城衛星通信所を皮切りに本社でマイクロ波伝送路の建設に従事した後、平成4年にクアラルンプール事務所開設に従事し事務所長を務め、平成8年に本社に戻った後大手町センター長等を務め、平成17年に米国のBT Infonetに出向し海外合弁事業経営に参画、平成21年には国際ケーブルシップ社長として平成27年まで子会社の経営に当たられたという多彩な経歴を誇る技術者&経営者である。
 一方、矢田部氏は、子供の頃から真空管ラジオを製作して落語を聞くのが趣味で、落語に関する造詣が深いと聞き及んでいたため、落語についても講演に盛り込んでもらいたいとお願いしていた。 その後、時間の制約もあるため、今回は落語に関する話をしてもらうことになった経緯があった。


 講演では、矢田部さんが落語を聞き始めるきっかけとなった真空管ラジオの製作から話が始まり、落語を聞いているうちに、落語の背景となっている江戸時代の風俗や噺家の所作の意味を理解していないと話の面白さが半減してしまうとして、江戸時代の生活や背景について解説をしてくれた。 落語のネタには、男の三道楽(「飲む」、「打つ」、「買う」)を扱ったものが多いとして、江戸の遊郭の代表である吉原のあった場所や歴史の解説、江戸時代の貨幣制度や1両の価値の解説があった。 更に、落語の「ときそば」を理解するのは当時の時刻の呼び方を知っておく必要があるとして、時刻の呼び方、更に明治まで使われていた太陰暦と二十四節気の関係、明治6年に太陽暦に切り替わった理由等の説明があった。
 その後、落語のネタに関連して、小話等に登場する「洒落」、「地口」、「川柳」、「狂歌」、「都都逸」の違いや有名なネタの説明があった。
 次いで、矢田部氏から見た昭和の噺家の中の「名人・上手」の解説があり、講師が実際に聞いた噺家の中から戦後に活躍し録音が多い落語家;五代目古今亭志ん生、八代目桂文楽、六代目三遊亭圓生、五代目柳家小さん、十代目金原亭馬生、三代目古今亭志ん朝、三代目三遊亭金馬、七代目立川談志等について、様々なエピソードの紹介があった。
 講師の矢田部氏の落語に関する蘊蓄の深さは、想像を絶するもので、落語の話はいくら話しても語りつくせないようであった。 しかし、時間の制約もあり本日の講演会は13時15分でお開きとなった。
 今回の講演会は、連休明け直後ということもあり、参加者数は前日時点では35名であったが、直前に都合が悪くなった方が3名、更に当日欠席された方が2名おられ30名とちょっと寂しい結果であった。 会員の方々も加齢による物忘れや思い込みで時間を間違えていたというケースも増えてきているようだ。ギリギリの予算でやっているため、お気を付け願いたい。

 

 

 

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平成27年
 

平成27年度 サテライト会総会(11月30日)の模様


今年最後のサテライト会は、先ず総会が行われ、遠藤会長より今回は横井さんのご紹介で、元航空総隊司令官で第2代内閣衛星情報センター所長を務められた小田邦博氏を講師にお迎えし、「我国の安全保障にかかわる衛星利用の在り方等について」という演題でご講演をいただきますとの挨拶があった。

続いて稲垣幹事より今年度の活動報告が行われ、過去3回の会合出席者が41名、40名、40名と盛況だったとの報告があった。なお、参加者の高齢化に伴い、会合出席を予定されていたにもかかわらず、思い込み、物忘れ等で当日欠席される方が毎回おられ、会合の収支が赤字となってしまっているため、ご留意いただきたいとのお願いがなされた。今回の会合は、演題が普段聞けない話ということもあり、42名(1名欠席)の参加申し込みがあり、これまでにも増して盛況だった。


本日の講師の小田氏は、1969年の防衛大学校の第13期卒業生で、航空自衛隊に入隊され、それ以降日本の空を守る戦闘機の操縦士としてF86、F2、F15等の操縦桿を握り、約4,000時間のフライト実績を有するパイロットだったそうで、米国映画の「トップガン」に比肩される経歴をお持ちの方だった。

 

小田氏は、1987年から数年間、ポーランド日本大使館の駐在武官としてNATOや欧州各国の軍関係者との外交折衝や情報収集活動に従事された国際派外交官としての経験もお持ちで、2004年に航空総隊司令官を最後に自衛官を退官し、2005年4月に第2代内閣衛星情報センター所長に就任し、2008年8月までその要職を務められた。

 

講演では、上記の自己紹介に始まり、内閣衛星情報センター(Cabinet Satellite Intelligence Center:CSIC)が設立された経緯、組織概要、業務の概要等について解説され、我が国の情報収集活動における衛星利用の重要性や衛星画像情報の分析手法の改善の取り組み等について解説された。なお、CSICの概要については、ウィキペディアに解説がありますので、興味のある方はそちらを参照願います。

会場風景

 

 

 
 


平成27年度 サテライト会第2回(9月14日)の模様

平成27年度の第2回目のサテライト会は、9月14日に41名の参加を得て、開催された。 今回は、KDDIの現役で長年にわたってマルチメディアおよびケーブルテレビ事業分野の開拓等で活躍されてきた山添亮介氏および J:COM OB の清水茂昭氏(住商出身)をお迎えし、「ケーブルテレビと将来の映像ビジネスについて」というテーマで講演をしていただいた。


講師の山添氏は、1985年にKDDに入社以来、大手町、本社衛星伝送部伝送課で映像伝送、国内伝送路のデジタル化を担当した後、1989年に郵政省データ通信課に出向した。 その後1991年に復職しインマルサット理事会担当を経て、1995年にマルチメディア担当でCATVインターネット実験、マルチメディア関連子会社設立等を担当し、以降20年にわたってマルチメディアおよびケーブルテレビ等の新規事業分野の開拓および経営に取り組んでこられた技術者である。 1998年にKMNを設立し出向、2006年にKDDIがJCNの丸紅、セコム保有株式を買収し、これに伴い出向、更に2011年に J:COM への出資に伴い出向して事業経営に取り組んでこられた経歴が示すように、KDDIにおけるマルチメディアおよびケーブルテレビ事業分野の開拓に取り組んでこられた異色の技術者というより経営者である。


CATV事業がKDDIの大きな事業分野に成長してきていることから、サテライト会の参加者にとって、今回の演題の「ケーブルテレビと将来の映像ビジネスについて」というテーマは、時宜を得た演題であったようで、講師の話に熱心に聞き入っていた。
講演では、先ず、地上テレビ放送で使われてきたVHF/UHF帯の電波の周波数割当とテレビチャンネルの関係について解説され、ケーブルテレビがアナログテレビ放送の受信障害(ゴースト、建造物による受信障害等)問題の解決策として導入された経緯を説明し、次いでケーブルテレビで使われている同軸ケーブルや光ファイバー等を用いたHFC(Hybrid Fiber and Coaxial)ネットワークやFTTH等のケーブルテレビネットワークの技術的な仕組みについて、分かり易く解説された。
講演の中で、地上デジタル放送への移行によって、ケーブルテレビで地上デジタル放送を見ている所帯は、2015年3月末時点で52.2%に達しているとの説明があり、ケーブルテレビが日常の生活に深く浸透しているとの説明があった。 また、ケーブルテレビは、地上テレビ放送の映像だけではなく、BS/CS放送の映像の視聴やインターネットアクセスやケーブル電話サービスも提供しており、これらのサービスを伝送する仕組みについても分かり易く解説された。


ケーブルテレビ関連の技術的な解説を一通り済ませた後、ケーブルテレビのビジネスモデルについて J:COMの事業を引き合いにして、解説された。 J:COMは、今年で創業20周年を迎えたが、2015年3月期の売上高は4,902億円、従業員数14,204名の従業員を有するマルチメディア業界の雄となっている。J:COMの主要事業はケーブルテレビ事業とメディア事業の2本柱で、営業収益、営業利益、当期純利益は右肩上がりを続けてきているが、成長率は鈍化傾向にあり、契約者の高齢化という課題を抱えているとした。
映像事業業界では、放送サービスの高度化に向けて、4K/8Kの高画質化やVOD、スマートTV、ネット・SNS連携対応等の高度化に取り組んでいるとして、最新のSTBの高度化等について解説された。また、J:COMの課題として、4K/8K 放送や1Gbpsインターネットに対応するため、既存のHFCネットワークの高度化の課題について説明された。
一方、J:COMの事業は、映像事業やインターネット事業契約者数が飽和に近づきつつあることから、電力小売りの自由化への取り組みや、お客様生活全般をサポートする取り組みを強化する取り組みを強化しているとした。

また、米国のケーブルテレビ業界では、OTTによる映像のネット配信の増加に伴い、米国のCATV契約者数が減少傾向にあると紹介し、今年Netflixが日本にも上陸したことによる、米国の業界で起きていることが日本でも起きるとして今後の事業展開に強い懸念を抱いていることが紹介された。 また、米国の地上波トップのCBSが動画のインターネット配信を開始したことも大きな課題であるとし、同様の動きが日本の放送事業者にも波及することへの懸念を示した。 ネット配信に関しては、映像の将来動向を予測するうえで、ラジオサービスの動向が大いに参考になるとの考えを示し、ラジオサービスでは、ネット配信が普遍化しつつあるとし、映像ビジネスも同様の動きをすることが不可避として、IP化が進む映像ビジネスの動向に対し、放送業界・ケーブルテレビ業界がどのように対応していくかなどについて、示唆に富んだ解説がなされた。

講師の山添氏は、本年KDDIに復職したが、これまでCATV業界で様々な技術課題ならびに経営課題に取り組んでこられた方だけに、CATV事業の技術的な仕組みや事業モデル、今後の課題等、難しい話を分かり易く解説していただき、時間の過ぎるのが早く感じた。
次回は、11/12月に元防衛省高官による「安全保障にかかわる衛星利用」の講演を予定しているとの予告がなされた。

 

 

 
 

平成27年 サテライト会第1回(5月14日)の模様

  平成27年度の第1回目のサテライト会は、5月14日に40名の参加を得て、開催された。 今回は、KDDIの現役で長年にわたって衛星通信や国際ケーブルシステムの建設等で活躍されてきた樋口敏夫氏をお迎えし、「衛星通信の国内外の動向」というテーマで講演をしていただいた。 
  講師の樋口氏は、1977年にKDDに入社以来、茨城衛星通信所、本社衛星通信課で16年にわたって衛星通信設備の建設・設計に従事された後、1993年から沖縄国際中継所、KDD-SCSで11年にわたって海底ケーブルの建設に従事され、2006年からはJAXAに出向され技術試験衛星の開発に従事された。 2011年からはKDDI国際ネットワーク部に戻り、以来衛星通信関係の業務に従事されている。 
  サテライト会の参加者にとっても、これまで色々な形で衛星通信に関わりあってきたメンバーが多いことから、今回の演題の「衛星通信の国内外の動向」というテーマは、時宜を得た演題であったようで、講師の話に熱心に聞き入っていた。 
  講演では、KDDIの衛星通信の現状についてのテーマからスタートし、山口衛星センターの現状が紹介された。 山口衛星センターは、現在、牧尾所長以下26名の要員で運用されており、設備の運用監視は、新宿や大手町からの遠隔監視制御で行われているため、山口に設置されている衛星通信設備の保守や工事対応が主な業務となっている。 地球局の象徴ともいえるアンテナは、32mクラスのアンテナは商用サービスから外れ、電波天文業務用に再利用されており、現在、商用の主体は18mクラスのものが4基、9~18mクラスのものが5基、8m以下のものが7基であり、これらアンテナ群の外観写真等が紹介された。 
  サービス面では、固定通信用は、ファイバーに切り替えられない国に対する国際公衆回線の数回線、在外公館や南極などの専用線回線などにとどまっている。 TV伝送用ではNHKなどの放送会社の他にケーブルTV会社の映像配信サービスも提供されている。 また、海事衛星通信サービスでは、Inmarsat第3世代衛星を利用した通信サービスが山口センターのアンテナを利用している。 一方、東日本大震災時の非常災害通信用として衛星通信の役割が再認識されたが、残念ながら山口センターのアンテナ設備を利用することなく、スカパーJSATやIPSTARが提供している衛星通信サービスが利用されたとのことである。 
  国際的な衛星通信の動向に関し、Inmarsatは、第4世代衛星以降、BGANなど自社グループでゲートウェイ局を構築し、端末からネットワークまですべて自社網によるグローバルなサービスを展開している。 そのため、山口センターのアンテナ設備を用いたInmarsatサービスは現在の第3世代衛星をもってその役割を終了することになるようだ。 また、Inmarsatの第5世代衛星は初めてKa帯を導入し、さらに高速のデータ速度を提供するGlobal Express(GX)なるブロードサービスを展開しようとしている。 GX衛星の初号機は2014年にIORに打ち上がり、続いて2015年2月にAOR、2015年央にPORに打ち上げが予定されており、今年末にはGXのグローバルサービスが開始される予定である。 またInmarsatは欧州においてS帯を利用した地上の基地局を構築して航空ブロードバンドサービスを導入する計画もある。そのサービスの補完としてS帯通信衛星を打ち上げるようだ。
  一方、固定衛星分野のIntelsatは、次世代衛星を用いて”epic”と呼ばれる衛星通信プラットフォームを構築する計画である。epic衛星は、周波数としてC/Ku/Kaバンドを用い、スポットビームの組み合わせ、Digital Channelization技術等の活用により、低ビット単価で柔軟な衛星回線の構築、高信頼のサービスを提供するとしており、従来の固定衛星サービスのみならず船舶や航空機向けのサービスも視野にいれている。KDDIとしてもこれら新しい衛星に対処するため既存地球局の対応が迫られている。
  通信衛星については、近年大容量化が進んでおり、このような大容量かつブロードバンドを扱う通信衛星をHTS(High Throughput Satellite)と呼んでいる。InmarsatやIntelsat以外にもKaバンドを活用した”O3b”、”KA-SAT”、”ViaSAT”等の通信衛星がすでに商用サービスを展開しているとのことであった。
  今後の衛星通信の利用で注目すべき一つの分野として、携帯電話基地局のバックホールへの活用が検討されているとのことである。
  更に、我が国の宇宙開発についても言及され、これまで平和利用を目的とした宇宙開発から安全保障や産業振興を加えた宇宙基本法が制定されたこと、それに基づき宇宙開発の主管がこれまでの文科省から内閣府宇宙戦略室に再編されたとのことであった。また、2013年に宇宙基本計画が策定されたが、安倍政権の指示により見直しが行われ、本年1月に新たな宇宙基本計画が策定された。その中で、準天頂衛星の4基体制から7基体制へ、またこれまで凍結されていた技術試験衛星9号の開発計画が明記されたとして、次期技術試験衛星の概要についても説明がなされた。
講演終了後、”O3b”システムの稼働状況、ESVサービスの状況等についての質疑応答が行われた。
  今回の会合では、初参加となったKDDI財団の井上専務理事から自己紹介が行われた。また、3月のドイツの飛行機事故で不慮の死を遂げた元KDDの衛星通信技術者の永田 敏氏のご冥福を参加者一同で祈った。
  次回は、9月に「ケーブルテレビ関連」、11/12月に「安全保障にかかわる衛星利用」の講演を予定しているとの予告がなされた。

 

 

 

▲INDEX 

 

平成26年
 

平成26年 サテライト会第3回(12月5日)の模様

  今年最後のサテライト会では、『ケーブルテレビ(CATV)事業を取り巻く環境の変化について』という演題で、JDS(日本デジタル配信株式会社)の中村博行氏に講演していただいた。
  講師の中村氏は、KDD時代から衛星通信分野やモバイル分野で活躍されてきたが、2009年にCATV業界のJCN足立に代表取締役副社長として出向してCATV会社の経営に参画され、2014年4月のJ:COMとJCNが合併を機に、新生J:COMからJDSの代表取締役副社長に就任され、引き続きCATV業界で活躍されている方である。
  講演では、 “JCNスマートテレビ”のビデオをもとに、最新のSmart TV Box (STB)とWi-Fi接続とタブレットを組み合わせて、自宅のリビングや寝室等で多チャンネル放送や地元コミュニティ放送を含む様々な映像コンテンツの視聴&録画、高速インターネットアクセス、ゲーム等のアミューズメント、ネットショッピング等をお客様に提供しているなど、最近のサービスについて解説があった。 また、お客様サービスの事例として、“安心かけつけスマートサービス”の紹介があり、このサービスは、最新のSTBが高機能化するに伴い、各種機能の初期設定や高度サービスの操作が複雑になってきていることから、初期設定等を社員がお客様の自宅に訪問してお客様の使用環境にて丁寧に説明するサービスで、時間と手間がかかるが、好評で想定以上のご契約をいただいているとの紹介があった。
中村氏は、その後、CATV業界の概要について2001年にJCNが設立されてから、KDDIがJCNの事業に資本参加した2006年以降のCATV業界の動きについて解説された。 また、中村氏が副社長を務めているJDSの役割について、同社は2000年に全国のCATV事業者を支援するために設立された会社で、全国250局に番組素材を3つの光伝送路と衛星ルートを介して配信することが主要任務であり、全国546万台のSTBに映像を配信していると説明された。
  次いで、CATV業界の経営環境について解説がなされ、CATVサービスの総接続所帯数は約2,864万所帯(このうち有料番組契約所帯数は約853万所帯)、営業収益はCATV事業によるものが約5,030億円、その他の収入が約5,030億円となっている。 特に大多数を占める地方のCATV会社は、規模が小さくCATV事業のみでは経営が厳しく、環境エネルギー分野、ガス事業、ブライダル・介護事業など様々な事業で生き残りを図っているとした。 CATV業界はJCNと合併したJ:COMが関東・関西・福岡・仙台・札幌等の大都市圏のCATV会社を支配下に収め業界シェアが53.1%というガリバー企業体になっているが、その他の事業者は、TOKAIコミュニケーションズ、CCJ、CNCという3つの総括運営会社を除くと、経営規模が小さい会社が大半を占めており、もともと、地上放送の難視聴解消や地域活性化のために、自治体を含む地域のコミュニティによって設立された事業者が多く、地域コミュニティとの結びつきが強いという背景をもっており、事業者の80%が地方自治体の出資を得ているとした。
  CATV業界の経営課題は、少子高齢化に伴い、J:COMを含めて加入者の伸びが飽和状態に来ていることと、若年層のテレビ離れが深刻になってきていることにより、今の中高年世代が抜けると一気に有料番組契約者が激減する可能性が高いことが大きな問題であるとし、若年層をつなぎとめる施策が喫緊の課題であるとした。 また、米国や韓国のCATV業界の動向についても解説され、米国市場では、映像配信市場のプレイヤーとして、Comcast、Time Warner Cable等のCATV事業者の他に、DirecTVやDish Networkという衛星放送会社、更に、Verizon Communications、AT&T等の通信会社、Netflix、HuLu等のインターネット事業者が入り乱れてサービスを提供しており、企業の買収合戦が繰り広げられているとした。 また、インターネット事業者が4K配信を開始しており、CATV事業者も競争対応で4K対応のIP-STBを2014年夏にリリースし、顧客の確保に躍起になっているとした。 また、韓国市場は、2008年の「IPTV法」により、条件を満たせば、誰でもIPTV事業者になれることにより、放送事業者もIPTV放送ができるようになり、放送事業者、CATV事業者、通信キャリアの三つ巴の競争が続いているとし、ブロードバンドサービスが先行して普及したため、テレビ番組を録画するという考え方がない(いずれかの媒体でどんなコンテンツでも視聴が可能)という状況とのこと。 更に、CATV業界が取り組んでいる技術課題について、中小CATV事業者の経営の効率化のための共通プラットフォームの構築の紹介があった。 具体的には、IP映像伝送プラットフォーム、ID連携プラットフォーム、監視プラットフォーム、All Japan CATV連合配信、SMSプラットフォーム等の構築に向けた開発を進めているとし、数年以内の実現を目指しているとした。 また、2020年の東京オリンピックでの4K/8Kの高精細度映像伝送サービスの商用化を目指して4K試験配信を実験中で、2015年の実用化を目指しているとした。 また、第3世代のSTBの2016年初旬の商用化を目指して開発が進められているとした。第3世代STBでは、4K高精細度映像サービス、ハイブリッドキャスト、リモート視聴等の機能の実現を目指しているとして機能の説明がなされた。 更に、最近 インターネットの発展により視聴のパーソナル化が進んできたことから注目されているDigital Living Network Alliance (DLNA)規格の動向について解説していただいた。 DLNAとは、ホームネットワーク(家庭内LAN)に接続された機器やコンテンツの相互接続の実現を推進するために2003年6月に結成された業界団体が制定しているユーザーインターフェースや接続手順のガイドライン規格のことで、この規格を満足していれば、異なるメーカーの機器でも相互接続が可能となり、利便性が大幅に向上する。 これまでに、2004年にVer.1.0、2006年にVer.1.5というガイドラインが制定され、2009年にVer.2.0のガイドラインが作成された。 近年DLNA対応の端末が増加してきており、認証取得制度も整備されつつあり、今後さらなる発展が期待されるとした。
  中村氏は、これからもJDSでの仕事を通じてCATV業界全体、特に地方の中小CATV会社の活性化への貢献を目指す活動を続け、地方創生への貢献に尽力していきたいとして講演を締めくくった。
  今回の講演会には、初参加の大場尚文氏を含めて40名という多数の参加をいただき、CATV業界を取り巻く諸課題に関する中村講師の説明に、予定時間を超過する盛況ぶりだった。

以上 

 

 

 
 

平成26年第2回サテライト会(平成26年9月11日)の模様

今年2回目のサテライト会は、石黒正人国立天文台名誉教授をお招きして、『人類最大の望遠鏡 ALMAの建設』という演題でご講演をいただいた。 ご講演のテーマが、人類の英知を結集した国際共同プロジェクトであるチリの標高5,000mにあるアタカマ高原における電波望遠鏡の建設ということで、会員の関心を集め、これまでで2番目に多い41名の参加があった。
石黒名誉教授は、ご自身がこれまで従事されてきた名古屋大学空電研究所におけるcm波干渉計による太陽電波の研究、その後の野辺山天文台での45m大型ミリ波アンテナと10mミリ波帯干渉計の建設プロジェクトの概要などご苦労されたエピソードを交えて、電波天文学への取り組みについて話を始めた。

国際的舞台で大きな活躍をしている日本の望遠鏡として、ハワイ・マウナケア山頂に設置されたすばる望遠鏡が有名であるが、このプロジェクトはあくまでも日本単独の計画であった。これに対し、本日のテーマのALMA(Atacama Large Millimeter / sub-millimeter Array:アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、北米、欧州、東アジアという世界の3極がほぼ対等な規模で建設に参加するという計画であり、天文学のみならず自然科学分野で初めてといってよい真のグローバルプロジェクトであるとした。

石黒名誉教授は、名大空電研、野辺山天文台における経験の集大成として、より精度の高い電波観測を行うためには、大気の揺らぎの影響を受けない海抜4,000m以上の高地に10km以上の基線長を有する電波干渉望遠鏡を建設する必要があるとして、その必要性、建設サイトの選定にあたっての条件等について解説してくださった。

このような条件を満たせる場所は、限られており2001年に、北米、欧州、東アジア(日本&台湾)の国際共同研究プロジェクトとして、南米チリのアンデス山中の標高5,000mの高原に電波望遠鏡を建設することが合意された。 日本チームは、チリのサイト候補地の選定や、衛星電波を利用した電波観測の事前検証調査においても先導的な役割を果たした。

石黒名誉教授は、基本構想の提唱者であり、このプロジェクトの日本側代表として、国際間の研究構想のとりまとめ、建設合意に向けての国際間交渉、観測設備の仕様策定協議、現地での建設工事の責任者として本プロジェクトの発案から施設完成まで、本プロジェクトの実現にご尽力された方だけに、本プロジェクトの様々な局面におけるご苦労談を交えて、本プロジェクトの道のりを分かり易く解説してくださった。

ALMAでは、口径12mと7mのアンテナを合計66台組み合わせ、最大口径18kmのパラボラアンテナに相当する解像力を実現しており、この性能は、世界で現存する最大級の光学望遠鏡より一桁高い解像力を実現している。 観測設備は、北米、欧州、東アジアが分担してそれぞれが独自に製造を担当し、現地で組み合わせて性能を出す手法を採用したため、現地での総合調整試験等でも様々な工夫を凝らした。

ALMAでは、31GHz(当面84GHz)から950GHzという帯域を10分割(当面7分割)して測定できるようにされており、ミリ波からテラヘルツに近い様々な周波数帯の電波を観測することにより、光学望遠鏡では見えない低温のガスの振る舞いを観測できるため、高い解像力と感度、そして精細なスペクトル観測性能を活かし、星・惑星や銀河の誕生、そして宇宙における生命の誕生の謎に迫ることが期待されている。

 5,000mの高地での作業は思考能力が劣化するなど生理学的に苛酷すぎるため、観測設備の組立、調整等は、2,900mの地点に設置された山麓の観測センターで行われている。 また、電波望遠鏡で受信した10バンド(当面7バンド)
の信号も、-269℃に冷却された受信機からの信号を光ファイバーで山頂施設に伝送し相関処理後山麓施設でその後の分析を行っている。 また、本システムは、世界各国の研究者によって、共同利用されており、山麓施設からの遠隔制御でスケジュールに沿って、採択された観測プログラムが実行されている。

本プロジェクトは、欧米各国と東アジアの国際共同研究となった結果、世界中の高度な専門知識がALMAに集約され、それぞれの単独計画に比べてはるかに高い性能の観測装置に仕上り、まさに「人類最大の望遠鏡」となった。

ALMAの現地に据えつけられたアンテナの1号機は、日本の三菱電機が製造したもので、日本は予算の承認取得が遅れたため、2年のハンディーがあったが、一番早く完成させたことも特筆すべき事項である。なお、66番目のアンテナは、2014年6月に現地に設置され、全体が完成した。

これまでの観測によって、暗黒星雲で星間ガスから星が誕生する様子が確認され、また、宇宙空間で複雑な分子構造を有するグリコールアルデヒトという糖類分子の存在を確認する等の成果が得られているなど、代表的な観測例を紹介してくださった。また、タンパク質を構成するアミノ酸の中で最も簡単な「グリシン」の検出可能性についても説明があった。

質疑応答では、地球外生命の存在の研究状況、ビッグバンの概念の理解方法、北半球の宇宙の観測の必要性等、専門的な質問が多数よせられ、これらに対し石黒名誉教授からは丁寧に分かり易い解説が行われ、有意義な講演であった。

 

 

 
 

平成26年第1回サテライト会(平成26年5月29日)の模様

 今回は、エリクソン・ジャパンのCTOとして、同社の技術部門の責任者としてご活躍されている藤岡氏から、スマートフォンやタブレット普及によりトラヒックが急増しているモバイルネットワークの最近の展開、無線ネットワークの進化、今後のモバイル通信の技術課題等について、幅広く講演いただいた。
 スマートフォンの普及により、モバイルトラヒックは、前年比で70%~80%という高い伸びを示しており、この急激なトラヒックの急増に対応するため、事業者はこぞってLTE(Long Term Evolution)のエリアの拡充のための設備投資を行ってきている。 更に、各社は、LTE-Advanced技術の実用化による高度化を積極的に進めているとし、主要技術である異なる周波数帯域を組み合わせて高速化を図るCA(Carrier Aggregation)技術、高機能音声符号化技術を採用したVoLTE(Voice over LTE)技術、セル間制御技術等の機能について分かり易く解説された。
 最近のネットワーク技術で注目されているのは、NFV(Network Functions Virtualization)であり、SDN(Software Defined Network)でありクラウドであるとし、ネットワークの仮想化とリソースの最適化およびネットワーク全体にまたがるクラウドの活用が重要な鍵であるとされた。 また、更に次世代の4Gおよび5Gモバイルネットワークを支える技術動向について、標準化機関である3GPP(3rd Generation Partnership Project)における次期リリースへの要求条件の審議状況および要素技術について解説していただいた。
 中長期を見据えたモバイルネットワークでは、急増するデータトラヒック、M2M(Machine to Machine)に象徴される膨大なデバイス数、多様化する要求条件、省電力&小遅延等の様々な要求に応える新たな高度ネットワークの実現に向けて、世界各国で新たな挑戦が続いているとし、技術の進化に限界はないとされた。
講演は、現在最も技術革新が著しいモバイルネットワークの最新の技術動向と将来の技術課題に関するテーマだっただけに、専門用語が多かったが、講師の藤岡氏が分かり易く噛み砕いて解説していただいたお蔭で、講演後の質疑応答も時間が足りないほどの盛上がりようだった。
 なお、今回は、元研究所の來山征士氏、水野俊夫氏、元三菱電機の山中 治氏が新規に参加していただき、近況等のご紹介をいただき、和やかな会となった。 また、今回も、35名という多数の参加をいただき、盛況であった。

 

 

 

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平成25年
 

平成25年第3回サテライト会(平成25年12月10日)の模様

平成25年第3回サテライト会は、12月10日新宿ワシントンホテル地下一階「天津飯店」において開催されました。 当日はあいにくの雨でしたが、初参加の2名を含め35名の参加を得ました(初参加は、坂本令子さん、松本一夫さん)。 

恒例の卓話に先立ち総会が開催され、稲垣幹事からの平成25年度活動報告、平成26年度活動計画案が了承されました。
また、次年度幹事には、遠藤静夫(会長)、赤澤秀樹、稲垣和則、衣畑晃治、松中直人、數間清一(新任)が選ばれました。これまで長年にわたり幹事を務められた八塚さんに感謝の意が述べられました。

卓話の部で、KDDI 技術統括本部技術開発本部長宇佐美正士様から、「通信ログ(ビッグデータ)で何が分かるのか」という演題で、スマホなど携帯電話の発信・受信時やインターネット回線上のアプリの実行にて得られる大量の通信ログデータなどを分析し、得られた統計データなどをネットワーク品質の改善や新規ビジネスに生かす試みについて分かり易くご講演を頂きました。  

個人データなども含むため、その利活用には細心の注意が必要だと思いますが、他社に負けないビジネスを遂行していくためにビッグデータの今後の有意な利活用を期待しています。

次回は、来年5月頃の開催を予定しています。

 

 

 
 

平成25年第2回サテライト会(平成25年9月5日)の模様

平成25年第2回サテライト会報告

 表記サテライト会は、9月5日新宿ワシントンホテル地下一階「天津飯店」において開催されました。 当日の朝、関東地域はゲリラ豪雨に襲われ、交通機関が不通になったりしましたが、これまで最多の47名の参加を得ました(初参加は、太田亨さん、荒井誠さん)。

 卓話の部で、KDDI NW技術本部国際NW部ゲーブル技術グループ・マネージャーの桑水流 正邦 様から、「最近の光海底ケーブル技術について」という演題で、KDDIにおける組織体制、陸揚げ局の状況、ケーブル調達者の変遷、大容量化に向けての技術、課題などについて分かり易くご講演を頂きました。

 この中で、日本が、アジアー米国を最短で結ぶ大圏コース上にほぼ位置し、地理的に優位性があること、光ケーブルの大容量化に向けて、光の偏波、位相の利用に加えて、遅延検波、誤り訂正符号化(FEC)、デジタル信号処理技術の応用など、従来衛星通信で馴染みのある技術を光領域で利用するための技術開発が精力的に進められているといった話がありました。 また、大容量化には、波長分散の管理、石英の属性である非線形特性の対応も不可欠で、この分野での研究開発が進むことで、次期光ケーブルでは1波長あたり400Gbpsという大容量のシステムも検討されているとのことでした。

 次回は、本年12月頃、KDDI現役の講師による講演を予定しています。

 

 

 

 
 

平成25年第1回サテライト会報告


表記サテライト会は、5月8日新宿ワシントンホテル地下一階「天津飯店」において、 36名の参加を得て開催されました。

  卓話の部で、一般財団法人衛星測位利用開発センター(SPAC)理事、測位航法学会副会長の峰  正弥様から「日本版GPSである準天頂衛星は何故必要なのか。その利用市場はどのようなところにあるのか?」という演題で、現在実施されている実証実験での結果の一例、利活用の例などについて分かり易くご講演を頂きました。ポイントは、現在利用されている米国のシステムGPSと準天頂衛星システムを組み合わせることにより、位置情報の精度が格段に上がるということです。

講演において、以下の点が強調されました。

準天頂を利用したようなものをうまく展開して行くためには、


◆「市場開拓」「インフラ構築」「利用端末」を三位一体として動かしていくこと即ち同時に動かしていくことが不可欠である。

◆兎角、インフラが出来れば、端末は勝手に作る、端末等あれば、市場も動いて行く。市場があれば、インフラ構築は進む。と、誰かが動いて呉れれば、ちゃんと動くのにと言うように、動かないのは誰かのせいであると言いつつ、シーケンシャルな動きしかしない傾向にあるのですが、特に、新しい市場はそれでは、他の国に負けてしまう。全て同期して、関連させてバランスよく動かしてこそ、リーダとなれる。  

なお、実証実験については、http://www.eiseisokui.or.jp/ja/ でその概要を知ることができます。
また、準天頂衛星関連の政府としての見解等は、内閣府HPhttp://www.cao.go.jp/ の下段 「内閣府の政策」のところの「宇宙」で知ることができます。


次回は、本年9月頃衛星関連以外の分野の講演を予定しています。8月中旬頃案内を本HPに掲載しますので、「サテライト会」を閲覧し、多くの方の参加をお待ちしております。

 

 

 

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平成24年
 

サテライト会の(平成24年12月10日)の模様

表記サテライト会は、12月10日新宿ワシントンホテル地下一階「天津飯店」において、 35名の参加を得て開催されました。
総会の部では、平成24年の事業報告(3回実施)、会計報告、平成25年の事業計画(5、9、12月に実施予定)および幹事団が承認されました。

卓話の部では、KDDI (株)スマートソリューション部長の原田様、主任の安井様から「ワークスタイルが変わる! スマートデバイスのビジネス活用について」という演題で、 KDDIが開発された優れた操作性を持つ最新のスマートデバイスの活用例について、 実演を交えて、ご紹介いただきました。スマートデバイスを活用することにより、各企業の営業活動や個人のビジネス活動などが、効率よく行えることがわかりました。また、分かり易くご講演を頂き、質疑応答も盛んに行われ、参加者の興味の高さが伺えました。

 

次回は、来年平成25年5月中旬に無線、衛星分野の講演を
予定しており、平成25年4月中旬頃に、ご案内を本Webサイトの「サテライト会」に掲載いたします。専門外の方々にも分かり易くご講話を頂きますので、是非、「サテライト会」を閲覧され、一度ご参加されてみては如何でしょうか。新たな参加者も大歓迎です。


尚、サテライト会では、衛星関連以外の幅広い広い分野のご講演を頂いており、時代並びに実体に即した会の呼称の変更についても検討しております。

 

 

 
 

サテライト会(平成24年9月7日)の模様

サテライト会は、新宿ワシントンホテルの地下1階の「天津飯店」において昼食会として開かれており、メインイベントとして様々な分野の専門家を講師として迎えての卓話が企画されています。
今回は、元NHK放送技術研究所所長の吉野武彦様により「進化する放送技術-デジタル放送の開発を振り返って-」というテーマの講演が行われました。

1925年のラジオ放送の開始からテレビ放送、ハイビジョン、デジタル放送と放送界は大きく進化してきました。吉野様は、衛星放送、デジタル放送の開発に携わった研究者として、この間の経緯を振り返り、将来の放送技術を展望する内容のお話を、ユーモア豊かに、含蓄ある話題を織り交ぜながら、参加者を魅了しました。

1940年開催予定の東京オリンピックに向けて、NHK技研では当時としては驚異的な高さ100mのテレビ放送アンテナや多くのテレビ中継車を造り競技を放映しようと準備していたとのこと、そして無為に終わった開発力をその後に受け継ぎ、1964年のオリンピックでは、戦後の技研の総力をかけて取り組み、晴天の開会式を見事なカラーテレビで放映したことで典型的に示されたように、オリンピックとテレビ・メディア開発との強い繋がりを豊かに語られました。
自らの開発経験としては、「世界に先駆けて、世界一の技術へ」のスローガンのもと「静止画放送」に取組んだことがあり、それは成功せずに終わった。しかし後に、放送衛星デジタル化の計画では当初音声はアナログ伝送のままとされていたが、急遽デジタル伝送に切り替わり、その開発を命じられた時に、静止画放送開発で蓄えた技術がものを言い、短期間で、アナログ伝送品質をはるかに凌ぐデジタル伝送方式を開発することができたという。失敗を糧にし、成功へ導いた感動的な話でした。
講演後も、喫茶店での吉野様を囲んでの懇談が盛り上がり、大変楽しいひと時でした。

吉野武彦様の紹介
昭和41年日本放送協会入局、平成10年放送技術研究所長、
平成14年専務理事・技師長、映像・情報メディア学会会長等を歴任、
この間静止画放送方式、デジタル放送法方式の開発・実用化に従事、工学博士

サテライト会 会場風景

 

 

 

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